『私の町の千葉くんは。』

どピンク表紙は地雷率が高い

マンガを数多く読んでいくと、表紙を見ただけでなんとなくこれが自分の好みかどうか判別つくようになってくるんですよね。私だけじゃなく、そう言うマンガ読みの人、結構多いです。こんなサイト見てるぐらいですから、きっとあなたもそうですよね？

私の場合はもっぱら少女漫画が専門なんですけど、白が基調の表紙はプラトニック感強めで個人的に打率高めって印象です。手に取るとだいたい「川谷デザイン」か、「名和田耕平デザイン事務所」なんですけど、デザイン事務所の術中にハマっている感がすごい。

一方で、「表紙がどピンクな作品は地雷が多い」というのも自分の中の法則のひとつ。少女漫画ですから、ピンクって割と使われやすい色なんですけれども、ショッキングピンクを基調にした表紙の作品は、自分が苦手にしている、安易で意識低い恋愛モノが多いって印象で、敬遠しがち（逆にピンク色が薄くなるに連れ打率が上がるイメージ）。

いや、もちろん例外はあるんですけれども（『春待つ僕ら』とか）、傾向としてって話で。で、今回ご紹介する『私の町の千葉くんは。』の1巻がまさにイケメン＋ピンクで、「あっ…」って感じだったんですよ。正直あまり期待せずに読んだのですが、これが無茶苦茶面白かった。なんなら個人的には、今年の新作で一番ぐらいの感触です。

初恋の相手が生徒になってやってきた

物語の主人公は、27歳の高校教師・小野寺マチ。彼氏はおらず、合コンに参加して出会いを求めるも、学生時代に味わったような「絶対的な恋の衝撃」は訪れないまま。そんなある日、高校時代に恋い焦がれた初恋の相手、千葉くんの弟・千葉悠人が、生徒として転入してきます。姿形は初恋の相手そのもので、ドッペルゲンガーのよう。教師という立場ながら、彼の姿を見るたびに、高校時代の感覚がどっと押し寄せ、どうしようもなくときめいてしまうのでした……。

ふたつの初恋のはざまで揺れる

高校生のときは、千葉くん（兄）のことを遠巻きから見ているだけだったのですが、今度の千葉くん（弟）は生徒ですから頻繁に言葉を交わすし、男子高校生らしく、マチにちょっかいをかけてくることも。学生のときにはとてもできなかったアレコレが、10年遅れでやってくるのです。もちろん感情は外に出さないよう努めているのですが、内心トキメキまくり、心が叫びまくり。年下相手に節操なくときめいてしまう姿が面白いです。

さて、物語が教師と生徒という枠組みの中で進むのかと思いきや、まさかの初恋の相手・千葉くん（兄）とひょんなことから再会。しかもLINE交換から連絡を取り合い、二人で食事をするところまでトントン拍子。加えて離婚しており現在フリーと、まさかの10年越しの初恋成就の予感。２人の千葉くんの間で、マチの心はかき乱されます。

中和剤としての大人のしょーもなさ

ここまで書くとイケメンから愛されるマチは、まるでシンデレラのようですよね。実際イージーに愛されている感はあるのですが、それだけじゃありません。そこは27歳アラサーですから、相応に大人のダメさややるせなさを内包しており、実に愛すべきキャラクターに仕上がっているんですよ。

思考はとにかく短絡的で、すぐに調子に乗っちゃう。合コンではもっぱら盛り上げ役で、ついつい酒をガバガバ飲んで、あげく吐く。吐かなくっても、楽にお持ち帰りされちゃったりと、どうしようもない大人の残念さが随所に垣間見られて、シンデレラストーリー的なキラキラをうまいこと中和してくれているんですよね。またその振る舞いや回想からも、学生時代モテなかったんだろうなぁというのが伝わってきて、こう、親近感というか、どこか自分を重ねて見てしまう部分もあり、もう幸せを隠しきれないところも、バツの悪い瞬間も、上げ下げ両面で心にズバズバ刺さります。

そういうしょうもなさがあるからこそ、学生ならではの真っ直ぐさやプラトニックさに触れた時は新鮮に感じられるし、トキメキは大きくなるんですよね。一方で、それだけじゃお腹が空くのも事実で、そんなときは大人のお付き合いの中で得られる官能的な幸福や、金銭的な安心感にも魅力を感じるわけで。

冒頭で1巻の表紙について言及しましたが、「学生の恋」を連想させる表紙に対して、2巻では「大人の恋愛」を感じさせる雰囲気で、デザイン的にも良い対比になっています。どちらも欲しい、幸せすぎて選べない、身悶えすること必至の、究極のサンドイッチ・ラブ、是非ともご賞味あれ。

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©おかもととかさ/講談社