2018.04.16
【まとめ】喫茶店で一息しながら読みたい「珈琲」をテーマにしたマンガ
ようやく日がのびてきたものの、まだ少し肌寒い季節。冷たい風や雨の日もあり、休日に遠出したくてもどうにも体がだるい……。そんな日は、近所の喫茶店でゆっくり読書してみてはいかがだろうか。
今回は軽い味わいのオムニバスから深みのある人間ドラマまで、喫茶店で読むと気分が盛り上がるような、「珈琲」や「喫茶店」をテーマにしたマンガを紹介しよう。
『一杯の珈琲から シリーズ 小さな喫茶店』
珈琲マンガといえば山川直人先生の『一杯の珈琲から』をまず挙げておきたい。版画のように味わいのある独特の画風で綴られる短編集だ。
各話に登場する主人公たちは、誰もが人間らしい弱みや情けなさを引きずっている人たちばかり。視界は狭くて小さな自分を嘆いている。喫茶店でワケありなライブのチケットを手に入れてはしゃいでいたある男は、チケットに隠されていたある恋情を知り落ち込んでしまう。きらきらしたカフェに憧れながらも地味な喫茶店に居を定めてしまう少女は、コンプレックスに苛まれたまま辞めることができない。けれども、路地裏を一歩入って喫茶店で珈琲を一杯。それだけで見えていなかった人生の側面が見えてくる…
素晴らしいことばかりではないが、ひとときの不思議な偶然をかぐわしい珈琲の香りと共に丁寧に描き出すストーリー集。
お気に召したら、同「小さな喫茶店」シリーズの『珈琲色に夜は更けて』『珈琲桟敷の人々』も併せておすすめしたい。
『バリスタ』
『バリスタ』は、イタリアのバールでバリスタとしての腕を認められていた主人公・蒼井香樹(あおいこうき)が、日本でのカフェ従業にあたり様々な苦難を乗り越えていく長編マンガ。
クセのない語り口で読みやすく、要所に散りばめられた珈琲の知識もするすると頭に入ってきて、本格的な珈琲に興味がわいてくる。
やがて自らの店を出店するまでの成長や人間ドラマが、バリスタの国際大会である「WBCC(ワールド・バリスタ・チャンピオンカップ)」への挑戦や、父親との確執、そしてほのかな恋も織り込みながら描かれており、見所は満載だ。
着目したいエピソードは8巻以降の、ある奇妙な焙煎人との邂逅。ここでのストーリーによって、単なる成長譚に留まらない豊かな味わいを加えている。
『コーヒーカンタータ』
もとはひなびた温泉街であった山間の地域「珈乃香温泉(このかおんせん)」は、気候変動を経て“スペシャルティコーヒー(※)”である「カンタータ」の産地となり、観光客が集まるように。そこで、観光だけでなく珈琲のスペシャリスト人材育成のため『私立カルディ学園』が開校された。
それぞれの目的を持ってこの学園に入学した少女琥珀(こはく)、もか、ミルをはじめとする少女たちの青春を描く群像劇だ。
どこかSFテイストもある学園ドラマだが、堅苦しさはなく気軽に読める。応援したくなるような健気な少女たちと共に珈琲について学べるし、何よりも絵が可愛い。
今後の展開が楽しみな、新しいタイプの珈琲マンガだ。
(※「スペシャルティコーヒー」とは生産地から消費者までの品質管理が行き届いた高級な珈琲のこと。珈琲マンガにはしばしば登場する)
『珈琲時間』
銭湯を舞台にしたヒューマンドラマ『アンダーカレント』で「Japan Expo 第3回ACBDアジア賞」を受賞した豊田徹也先生による珈琲をテーマとした短編集。
安定した画力で洒脱な台詞、小気味良いストーリー展開。どこをとっても完璧に面白い一冊だ。
チェリストの女性と映画監督を名乗るうさんくさい男の遭遇から始まり、小学生と探偵、山奥の悪党二人、伯母と姪、ブックカフェ(?)の店主と編集者……。明らかなフィクションとわかる小話もシリアスな展開も、珈琲一杯のうちに抽出されそして深みに飲み込まれていく。作者のファンならお馴染みの人物も登場する、粋な演出も。
表現力の確かさは群を抜いているので、マンガ好きなら押さえておきたい一品である。
『僕はコーヒーがのめない』
主人公は、老舗の飲料メーカーの営業でありながら珈琲が飲めない花山太一(はなやまたいち)。会社創立50周年プロジェクトでスペシャルティコーヒーを扱う企画の一員となるが、そこで、とある人物に珈琲が飲めない理由を指摘される。
スペシャルティコーヒーを扱う会員制クラブ「RDC(レッドダイヤモンドクラブ)」やコーヒー王位争奪バトル「王様コーヒー」など、組織単位の設定が引き立つストーリー。一筋縄でいかないキャラクターたちも個性的で、珈琲産業の背景を追うようなドキュメンタリー要素も充分。
味わい深い珈琲を飲みながら、捻りのきいたドラマを楽しみたい方におすすめの長編だ。
『カフェでカフィを』
「甘いものがほしくなるとき、それはどんなときだろう……。」都会のカフェでケーキを味わう女性、そわそわと落ち着かない男、女性に見とれる初老の男性。それぞれの内面には外側からは見抜けない、思いも寄らないモノローグが潜んでいる。
舞台は珈琲を通じて、マンションの部屋や、会社の休憩室へと移り変わり、次第に静かな地方の片道へも及ぶ。語り手は老若男女だけではない。缶コーヒーや自動販売機といった無機物まで各々の気持ちを語り出す。
勘違いや行き詰まりなど、日々の小さな憂いを軽妙に珈琲と絡める語り口が爽やか。野点、ファミレス、回転寿司屋など意外な舞台も登場する。会社の同僚、夫婦、小学生のクラスメイト、一線を退いたお爺さんの同好会など、様々な人々の交流が描かれる。
他者には見せられないはずの表情が、ふと接近して露呈される瞬間。その均衡の崩れを珈琲の香りが温かな毛布のようにくるむ。透徹した人間観察の視点が感じられるオムニバス短編集。
静かな雨の夜に部屋でリラックスしながら読むのがおすすめ。
珈琲マンガにはふたつのパターンがあり、喫茶店を舞台とした「オムニバス形式の短編集」と、バリスタそのものを主軸に「珈琲について学べる長編作」に大別される。しかしどのマンガも語り手の視点や語り口が異なり、それぞれの魅力がある。
お気持ちに適う要素があれば早速手にして読んでみてほしい。きっと新しい世界が広がるはずだ。
©山川直人/KADOKAWA, ©むろなが供未,花形怜/芳文社, ©からあげたろう/KADOKAWA, ©豊田徹也/講談社, ©吉城モカ,福田幸江,川島良彰/小学館, ©ヨコイエミ/集英社