2021.05.13

【インタビュー】『うるわしの宵の月』やまもり三香「何を描きたいのか?を自問自答して生まれたヒロイン」

めちゃくちゃ美しい顔を近くで見たい。あの人から目が離せない。この気持ちをなんという──?

うぶな王子余裕たっぷりな王子、ふたりの王子の組み合わせがどんなストーリーを織りなすのか、距離感のもどかしさにどきどきが止まらないラブストーリー『うるわしの宵の月』。

第1巻が次々に重版出来となり、この先のふたりの関係性にもますます注目な本作の第2巻が5月13日に発売となりました。

第1巻 書影

麗しき容姿にスマートな振る舞い、まさに王子と称される美しい女子、滝口宵。ヒーローみたいと周りには言われるのものの、中身は純粋でまだ異性と付き合ったこともなく、好きという気持ちも分からない思春期真っ盛りの高校生。

王子系女子の滝口宵。その美しさとふるまいに、老若男女問わず虜になってしまう。

そして、宵が通う高校にはもうひとり、王子と呼ばれている先輩・市村琥珀がいます。特に接点もなく、全くタイプの違う王子のふたりだったけれど、宵が市村先輩にピンチを助けてもらったことをきっかけにお互いの存在を意識するようになっていきます。

やんちゃそうな余裕のふるまいを見せ、泣かせた女は3ケタともいわれる王子、市村琥珀。

はじめは宵のことを男子と思っていた市村先輩だけど、いわゆる女子高生とはまた違う美しくたくましい宵のことが気になる様子。見目麗しい、ふたりの王子同士の関係はどうなっていくのか──。

目の保養剤のようなシーン連発の本作。大人気のヒーロー&ヒロインがどうやって生まれたのかなど、作品の背景を作者のやまもり三香先生にお伺いしました。

(取材・文:八木あゆみ/編集:八木光平

二転三転しても譲れなかった、ボーイッシュな女の子を描きたい思い

──『うるわしの宵の月』、ニューヒロインあらわる! という感じで、毎話きゅんきゅんしてしまいます。まずは、やまもり先生が漫画を描くようになったきっかけや漫画家になるまでからお聞かせください。

やまもり三香先生(以下、やまもり):漫画家を目指すきっかけは、ずばり絵が好きだったからですが、イラストはよく描いていたものの漫画まではなかなか行き着きませんでした。

中学三年生の時に「りぼん」に投稿しようと思ったものの、受験勉強で頓挫してしまって、そこから手つかずな状態だったんです。結局しばらくふらふらしてしまっていたんですが、21歳ぐらいの時に母親に焚き付けられて、もう一度描くことを決心しました。

一生実家の寿司屋で皿洗いするか、漫画家になるかどっちかにしなさい」って言われて(笑)。そのくやしさをバネに、漫画家を目指そうと思いました。

──漫画にはストーリーを組み立てるという、絵とはまた別の能力が必要になりますが、なぜイラストではなく、漫画という表現を選んだのでしょうか。

やまもり:何ででしょう……今思えば不思議ですよね(笑)。自然と、それしか道がないって思っていました。今なら作画と原作でタッグを組む方は結構いらっしゃいますが、私はその形に気づいてなかったので、とりあえず見様見真似で描いてみて今に至ります。

──では、どのような流れで『うるわしの宵の月』が出来ていったのかを教えて下さい。

やまもり:連載準備に一年弱ほどかかり、何度か大きな変化を経てこの物語になりました。実は、最初は男の子がたくさん出てくる話だったんです。4人ぐらいの男の子の中に女の子がひとりみたいな、テンション高めの学園ラブを考えていたんですけど……私がそういう話を描けないタイプだったんです(笑)。

自分で出しておきながら、描けないのでやめましょうとなり、そこから主人公の性格を変えてみる方向性で考え直しました。

貴重な初期イラスト

最初はボーイッシュで身長低め、やんちゃな感じの主人公だったのを、今度は黒髪の美少女にして男の子いっぱい案と組み合わせてみたんですけどうまくいかず。ここでようやく男の子がいっぱいでてくる設定もやめて、主人公のボーイッシュ案を復活させて、今度はおとなしめボーイッシュな女の子と静かめの男の子の組み合わせを考えました。

ただ、元の案からだいぶずれてきていることもあり、ふわっとした感じで連載を始めるのは危ないと思い留まって。最終的に譲れないことは何かを考えたら、「男の子っぽい女の子が描きたい」という思いが一番に出てきました。これを軸に、男の子っぽい女の子ありきで物語を考え、相手が誰だと面白いかという視点から、相手も王子という設定に落ち着きました。

見た目だけじゃなく、中身も美しくかっこいいヒロイン、宵。

──ボーイッシュな女の子を描きたいという思いが、今回の作品を作っていくにあたり先生の中でも軸になったんですね。王子×王子の設定ありきだと思ってたので意外でした。最初の男の子がたくさん案のときに考えていた設定は、現在の内容にはほぼ残っていませんか?

やまもり:キャラクターの名前ぐらいしか残ってないですね。候補がいくつかあって、星で「ひかり」、夜で「よる」、宵で「よい」のどれかにしたいとメモしていて、そこから宵が残りましたね。夜や宇宙にまつわる名前を考えていました。

──過去作では年上の男性との恋愛が多いイメージがありましたが、掲載誌が対象読者の年齢層があがる「デザート」になって高校生同士という組み合わせも珍しく感じました。

やまもり:読者の方からも「デザートに行くなら相手の男性は大人ですよね」と期待を寄せていただいていましたが、担当編集のしーげるさんに、高校生が描けるうちは描いた方がいいとアドバイスをいただいて(笑)、なるほどと。

また、仲の良い森下suu先生がいま連載中の『ゆびさきと恋々』で大学生の恋愛を描いていたので、かぶらないようにとも意識して舞台を高校にしました。

ヒロインの宵を軸に、まわりのキャラクターが生まれた

──まずキャラクターありきで相手も決まり、ストーリーが進んでいくという話でしたが、軸となるキャラクターをつくる中で印象に残ってるエピソードはありますか?

やまもり:今回、ヒーローがなかなか決まらなくて。二転三転して結局落ち着いたんですけど、最初はもっと寡黙で全然喋らないキャラクターを想定していました。

市村先輩の初期イラスト

担当編集 鈴木重毅@しーげる(以下、しーげる):宵が固まってきて、この組み合わせで萌える相手を探して、どんどん変わっていきましたね。

やまもり:喋らないヒーローもいいけど、別にこの子が相手じゃなくてもいいかなっていう感じでもあって。あと、ヒーローが喋らないと、宵ちゃんと絡まないままになってしまうというか、会話が進まなさそうで(笑)。

市村先輩のキャラクターがあってこそ、ふたりの距離に変化が訪れる。

──ちょっと余裕ぶってる先輩のコメントでどんどん話が進んでいきますね。

やまもり:市村先輩みたいにグイグイくるキャラクターはこれまで描いてこなかったので、新鮮に感じています。

あと、宵ちゃんとヒーローを大学生設定で考えていた時に、カレー屋のマスターである宵ちゃんのお父さんを、お父さんではなく宵ちゃんが惚れる相手にしましょうと私が一人で言い始めちゃって(笑)。

でも、「その話って、『ひるなかの流星』じゃない?」と気づいてしまいまして。これは既視感があるぞということで、お父さんに戻ってもらいました。

もしかすると宵ちゃんのお相手になってたかもしれない、ダンディーな宵パパ。カレーとコーヒーとレコードのお店を営んでいる。

──『椿町ロンリープラネット』のみどりちゃんと、今作の宵ちゃんに通ずるものを感じますが、何か繋がりがありますか?

やまもり:やはり元とはなってますね。『椿町ロンリープラネット』を描いてた時にみどりちゃんカップルを描くのがすごい楽しかったので、こういう子をまた描けたらなっていう思いから宵ちゃんが生まれました。ただ、黒髪ショートのボーイッシュな雰囲気は共通しつつ、みどりちゃんと宵ちゃんの性格は結構違いますね。

『椿町ロンリープラネット』の主人公が通う高校の先生、みどりちゃん。(『椿町ロンリープラネット』/集英社刊)

──ギョーザやチャイナ服などのモチーフをよく見かけますが、中華なイメージがあるのでしょうか?

やまもり:『ひるなかの流星』は洋風、『椿町ロンリープラネット』は和風のイメージが自分の中であって、その表現を一通りやった実感があったことと、中華っぽいのがいまのマイブームなので取り入れています。

でもこれだけ描いていると、このあいだ森下suuのなちやん先生(作画担当)に「やまもりがチャイナ描いてるから私は描かないようにする」なんて気を遣わせちゃって(笑)。

中華モチーフで描かれた扉絵

本当に分かるとはどういうことかNEXT

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八木 あゆみ

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