2018.02.11
【まとめ】歳の功か、単なるラッキーか? マンガの中でモテるおじさんたち
最近あまり聞かなくなったが、私が学生時代だった5年ほど前くらいは「枯れ専」という言葉が流行っていた。おじさんばかり好きになる女性の嗜好を指して言った。ちなみに私も周囲から「枯れ専」と言われていて、否定もしていなかった。若くてピチピチしたアイドルよりも、ちょっとくたびれた渋い俳優にグッとくる。ちなみに最近『恋は雨上がりのように』がアニメ化されるなど、女子高生がおじさんを好きになるストーリーが当然のように受け入れられ、かつウケているあたり、「おじさん需要ってけっこう高いのかも」と思ったのも事実である。
果たして、おじさんの何が女性の心をそんなにくすぐるのだろう。『恋は雨上がりのように』以外にも、“なぜか”モテるおじさんが描かれる漫画作品はたくさんある。私のようなおじさん好きはもちろんのこと、世のおじさんにとっても希望に満ちた作品群なのではないだろうか。
『Love,Hate,Love.』
“オスの目”した色気抜群の大学教師って、そりゃ好きになるわ
正直、「ヤマシタトモコの描くおじさんは格好いいので理由とかないです! 以上!」で締めたいくらい、好きになる理由を書くのが無粋に感じてしまう。それくらいヤマシタトモコの描くおじさんは格好いい。格好いいというか、エロい。絵からも匂ってくるフェロモンがすごいのだ。
『Love,Hate,Love.』(ヤマシタトモコ/祥伝社)では、バレエダンサーを目指していた女性と、彼女の隣に住む大学教師との出会いが描かれる。白髪で猫背で目尻の皺も目立つが、中年とはいいがたい色気はなんだろう。作中でも、若い彼女に欲情したときの視線が度々描かれ、「オスの目……!」と興奮してしまう。普段のおじさん的な落ち着きとのギャップで逆にやられてしまう。ずるい。
『恋は雨上がりのように』
大切なのは見た目じゃなくて、その包容力……って枯れ専の本質かも
打って変わって、『恋は雨上がりのように』(眉月じゅん/小学館)では、色気のイの字もないおじさんの登場である。好きになるのに理由なんてない、とはいっても、さすがに「なぜ?」と首をかしげたくなるほどTHE冴えないおやじ、なのである。10円ハゲはあるし、屁はこくし、バイトには体臭を指摘される始末。いわゆるエリート高収入というわけでもない。気が弱くて、見てて心配になってしまうほどお人好しである。
しかし、彼女が彼を好きになった瞬間は、確かに描かれている。ただただ、身近にいる歳上の魅力にやられたのではない。陸上部の練習中に足を怪我して落ち込んでいた彼女に対して、彼の見せた慰めは、決して押し付けがましくなく、格好つけてもなく、まさに年の功があるからこそできた余裕のあり方だったのだろう。元気付けられる、というよりは、部活という場所をなくした彼女にとって新たな居場所を得られたような気分だったのかもしれない。
思えば、歳上の、というよりはおじさんの魅力というのは、「いたいのなら、どうぞ」といったような来るもの拒まずの包容力なのかもしれない。アキラに「枯れ専の素質あるよ」なんて言ったら「店長だからいいんです!」なんて怒られそうだけど。
『君曜日 ─鉄道少女漫画─』
あんまり調子に乗らないでね。一時の気の迷いってこともありますから
ここで一旦、調子に乗り始めたおじさんの目を覚ますような作品もひとつ。生粋の枯れ専もいれば、一時の機の迷いなんてこともあるんです。
『君曜日 ─鉄道少女漫画─』(中村明日美子/白泉社)は、「鉄道少女漫画」の短編から「木曜日のサバラン」のスピンアウト。少女アコはよく行くケーキ屋さんの秘密の部屋で知り合ったサラリーマンの男性に恋してしまいます。彼の帰りをこっそりついていって、後ろ姿を写真で撮るなど、若干ストーカーじみたこともしてしまうアコ。いわゆる恋に恋している、という言葉がピッタリですが、彼女にとっては本気なんです。
サラリーマンの彼には妻子がいて、一度浮気を疑った奥さんが子供をつれてケーキ屋さんに乗り込んだこともありました。アコはそれを目の当たりにしていたので、それ以上にしつこく迫ったりはしません。でも、なかなか諦めもつかない。そんな中、彼女と同じ塾に通う小平が登場。最初は全く相手にされていない小平でしたが、まっすぐぶつかっていく彼の姿に、アコは少しずつ心を動かされるようになりーー。
優柔不断なサラリーマンは、一瞬かわいい女の子から想いを寄せられますが、そこは妻子もち。束の間のモテを知ったあとは、むしろ奥さんへの想いを再確認します。もし、妻子もちのおじさんがこの記事を読んでいたら、ぜひこの作品を読んでほしい。甘酸っぱい少年少女の青春を味わいつつ、自分の家族も大切にしたくなる、素晴らしいシリーズです。
あ、一番最初は「鉄道少女漫画」なので、そこだけお間違いなく。
『娚の一生』
おじさんがみんな「紳士」だなんて誰が言った? 飄々とした中年に振り回されるのもアリ
長期休暇で田舎の祖母の家に滞在していた堂薗(どうぞの)つぐみ。そこで、かつて自分の祖母を好きだったという51歳の大学教授・海江田と出会い、彼から求婚されるように。
幼い頃に両親に捨てられた海江田は、その傷を未だに癒しきれないまま生きています。だからでしょうか。時折、子供じみた発言やいたずらをしたり、若い男と間違うほどに熱烈にアタックしたり、どこか幼さのようなものが見え隠れするのです。そんな大人気ない中年がたまに「僕にはそんなに時間が残ってないから」なんていうのが、またずるい。おじさんは、若い男と違って余裕があって包容力があってワガママを聞いてくれて……ってそれだけが魅力じゃないことがわかる作品。中年と初老の中間、51歳の男がまるで少年のように女性の胸に顔をうずめているシーンは、なんだか胸にくるものがあります。
何よりも、おじさんが母性をくすぐってくるときの攻撃力にびびる。
『長閑の庭』
これは恋なのか、それとも嗜好かわからない。確かなのは、この「安らぎ」だけ……
最後はがっつり初老の紳士をご紹介。『長閑の庭』(アキヤマ香/講談社)に登場するドイツ文学教授の榊は64歳。23歳の大学院生、元子にアタックされるも、彼女の祖父との方が年齢が近いことに落ち込んでしまったり、自分の年齢を気にして心を閉ざしてしまったりすることも。
教授は元子からの告白をマトモに相手にはしません。また、元子も、自分自身の気持ちに葛藤します。作中でも「教授がいま若かったら、好きになっていたかわかりません」という発言があり、教授が好きなのか、それともおじさん(というか、この作品ではおじいさんに近い)が好きなのか悩んでしまうのです。
ただ、元子にとって榊教授は、一緒にいて気持ちが楽になる相手なのは確か。元子のことをしっかりと見てくれて、本当の良さに気づいて褒めてくれる。これはさすが年の功といったところで、そういう相手だからこそ、「受け入れてもらえそう」と気持ちが安らぐのかもしれません。
それにしても、なぜか大学教授率が高くなってしまいました。もしかすると枯れ専は、無意識のうちにおじさんに知性を求めているのかもしれません。
まとめ
以前テレビで、熟女好きの芸人が「自分の奥さんが歳を重ねるにつれて、どんどん可愛くなっていく」というような話をしていました。これってそのまま枯れ専にも当てはまるような。きっとおじさんの魅力に気付いたら、今好きなピチピチのアイドルも、同世代の恋人も、もしかしたらもう加齢臭が気になり始めたパートナーも、みんなこれから「さらに素敵」になりますよ。これを機に、新たな人生の喜びを知ることができますように。
©ヤマシタトモコ/祥伝社 ©眉月じゅん/小学館 ©中村明日美子/白泉社 ©西炯子/小学館 ©アキヤマ香/講談社