2021.05.05
【インタビュー】『じいさんばあさん若返る』新挑 限「老夫婦が主人公だから、地方が舞台だからこそ描ける話がある」
青森でりんご農家を営む斎藤夫妻。昔は貧しくて苦労したものの、子どもたちは立派に成長し、孫にも恵まれ、慎ましくも幸せな老後を過ごしていました。
もしも今、若返ることができたら、おばあさんを好きなところへ連れて行ってあげるのに……。まじめにコツコツがんばってきたおじいさんの願いを、神様が叶えてくれたのかもしれません。ある日ふと鏡を見ると、そこには若いころの自分の姿が(だけど髪は白髪のまま)──。
「新婚旅行行ぐどばあさま!」
ニコニコ漫画年間ランキング2020(ユーザーマンガ部門)第1位! 「こんな老後が送りたい」と各所で大反響の『じいさんばあさん若返る』。異色のラブコメが生まれた背景を、作者の新挑 限(あらいどかぎり)先生にお伺いしてきました。
人生経験豊富な老夫婦が見た目だけ若返ったら
──長年連れ添った老夫婦が若返り、第二の新婚生活を謳歌する『じいさんばあさん若返る』。この設定を思いついたきっかけは何だったのでしょうか。
新挑限先生(以下、新挑):前作の『幼なじみになじみたい』は大学生カップルが主人公のオーソドックスなラブコメだったので、それとは違う方向性にしようというところからいくつか案を出していきました。
ラブコメは付き合うまでの過程を描いた作品が多いので、すでに付き合っている男女の話にしたかったのがひとつ。また、前作はヒロインのかわいさを前面に押し出していて男主人公があまり目立たなかったので、女性読者にも好かれるような魅力的な男性キャラを描きたかったのがもうひとつ。
これらの要素を組み合わせた結果、人生経験豊富な老夫婦が見た目だけ若返ったら……というアイデアにたどり着きました。
──本作は、新挑先生のTwitterアカウントで毎週土曜日に更新されています。単行本はKADOKAWAから発売されていますが、あくまで個人での連載ということになるのでしょうか。
新挑:はい。最初から商業化を狙っていたわけではなかったのですが、第1話が運良くバズって、4話目あたりでデビュー以来お世話になっている担当さんから単行本化の打診をいただきました。
それからは担当さんに誤字脱字のチェックだけしてもらいつつも、Twitterやニコニコ漫画へのアップは全部自分でやっています。
おじいさんとおばあさんが若返った話。 pic.twitter.com/VcLOFfYQoz
— あらいどかぎり(新挑限)じいばあ2巻 (@araidokagiri) October 26, 2019
少子高齢化や過疎化について考えるきっかけのひとつになれば
──おじいさんの正蔵さんとおばあさんのイネさんは、新挑先生のおじいさま・おばあさまがモデルなんでしょうか?
新挑:こんなおじいさんとおばあさんがいたら素敵だろうなという自分の理想を詰め込んだ感じで、祖父母をモデルにしたわけではないですね。強いていえば、「孫に優しい」という点は共通していると思います。
──先ほど「魅力的な男性キャラを描きたかった」と仰っていましたが、正蔵さんの人物像について詳しくお聞きしたいです。
新挑:ひょろひょろした体型があまり好きじゃないので、正蔵さんにはムキムキになってもらいました。80代後半なので昭和初期の生まれなのですが、そこはフィクションということで、細目で前髪を下ろしている現代風なイケメン顔にしています。
とはいえ、ただかっこいいだけだと面白みがないから、服はダサいままという部分でバランスを取っています(笑)。タオルを首に巻いてたり、腹巻きをしてたり。
──正蔵さんの服のダサさはある意味チャームポイントでもありますが、イネさんの割烹着姿は純粋にかわいいです。
新挑:ありがとうございます。イネさんに関しては奇をてらわず、素直にかわいい女性として描いていますね。垂れ目でいつもニコニコしているけれど、ときどき正蔵さん以上にかっこいい一面を見せるところが個人的にも好みです。
──これまでのエピソードの中で、お気に入りのものをいくつか挙げていただけますか?
新挑:18話の「葬式」と、32話の「面影」が特に印象に残っています。前者はタイトル通りお葬式、後者は認知症という重いテーマを扱っているので、ラブコメを期待して読んでいる読者さんに受け入れてもらえるだろうかと公開するまで不安でした。
だけど幸い、どちらも「感動した」など好意的な感想をいただけて。これらのエピソードが描けたことで、おじいさんとおばあさんを主人公にしている意義が見えてきたというか、この作品の方向性がはっきり定まった気がしています。
──たしかに、どちらも他のラブコメ作品ではなかなか描かれないテーマですね。
新挑:単行本3巻だと、62・63話の「蔵掃除」のエピソードも描けてよかったです。地元の父の友人に、実際に大きな蔵を所有している方がいたので取材させてもらったんです。その蔵も、後継ぎがいないから将来的に取り壊す予定になっているらしくて。
自分は生まれも育ちも青森なので、地元には人並みに愛着を持っているつもりです。高齢化や過疎化など大きなテーマを描くときはプレッシャーも感じますが、この作品がそういったことを考えるひとつのきっかけになれば嬉しいですね。
©新挑 限/KADOKAWA
見た目は若くても、あくまで「老夫婦のラブコメ」を描くNEXT
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