『ヒヨコくんは甘くない』

ピンク背景にスイーツが飛んでて生クリームとともに押し倒される青年。

帯のアオリは「ある日、お尻を要求してくるお兄さんと出会いました」だったので、完全にギャグテイストのネタ系BLだわっしょい！！ と思って読み始めたら、思ったよりシリアス要素が多くてびっくりしました。

カップリングは、御曹司のパティシエ×無表情なコンビニ店員です。

そこまですごい感じではないんですけど、自分の店に引き抜こうと思って様子をうかがってたコンビニ店員の尻を藪から棒に鷲掴みにして「お願い!!パンツ脱いでお尻見せて」ってやるセレブはヤバいです。

完全にセクハラですし、脊髄反射で殴り倒されてましたが、裁判になっても正当防衛が成立するに違いありません。

BLには定番レベルでよくいる「出会った当初は受に毛虫のように嫌われる攻」ですが、「生身の尻を要求してくる能動的な変態です」ってバッサリ切られてて、この先ほんとにこの子達くっつくの？ って脳内に疑問符が乱舞しておりました。

この時点では完全にギャグだったんですよ……。

ここから、御曹司とコンビニ店員ことヒヨコくんの掛け合いとともにお話が進んでいきます。

いろいろと複雑な家庭事情を背負いながらもめっちゃいい子に育ってるヒヨコくんを、何とか自分の店に引き抜こうと金の力でアパートの隣に引っ越してくる御曹司。

引き抜きを断られても、めげずに新商品開発の試食要員にスカウトしてくる御曹司。なんだかんだでそれに付き合うヒヨコくん。

お互い、恋愛が一番の目的ではないんですけど、まず、無表情ながら無意識にいい接客をする、天然も入ったヒヨコ君に御曹司が落ちます。しかしヒヨコ君は気づきません。

雑談スキルマイナスなヒヨコ君は、どんどんやってくる御曹司の雑談メールへの軽い返信すらできないのですが「自分に雑談を求めてくる相手」というとても不思議な存在がいつの間にか気になり始めて、無意識レベルで惹かれていきます。

ちょっとしたすれ違いだったり、会社の方針だったりでなかなかすんなり相思相愛にはなれず、一度は完全に離れてしまう二人。

終盤の、離れている間に目標を見つけて頑張ったヒヨコ君が数年後、成長して御曹司と再会して……の流れで──もう完全に読んでる側を落としに来てですね……。落とされました。

随所にちりばめられたギャグがすごく楽しいんですが、ベースの流れがシリアスで、とてつもないバランスで成立してるナイスBLでした。

肌色シーンはほぼないんですが、萌えには溢れておりましたね。ギャグ好きにもシリアス好きにもおすすめできる珍しい作品です。

©タナカイッパチ/幻冬舎コミックス