2021.06.27

人の欲望を増幅させる謎の衣装「リビドークロス」を着た変態人妻達が襲い来る、サスペンス超怪作!『淫獄団地』搾精研究所, 丈山雄為【おすすめ漫画】

『淫獄団地』

本日紹介するのは最新話が更新されるたびSNS上の漫画読者界隈をざわつかせてやまない超怪作。

KADOKAWAの「ニコニコ漫画」内ブランド「ドラドラしゃーぷ#」で連載中の『淫獄団地』である。

身体を壊した父親の代理として、とある団地で管理人の仕事を引き継いだ高卒の青年・ヨシダ。貧弱で気弱な自分がうまく役目をこなせるのか。緊張する彼には、大きな不安材料がひとつあった。

この団地には、女性の変質者がたくさん出没するというのだ。彼女らはみな露出の激しい淫らな服を身にまとい、若者を襲っては性的な被害をもたらすらしい。住人の要望をうけて夜間の警備を引き受ける羽目になったヨシダの頭に、いまは入院中の父の言葉がよぎる。

「この団地は本当に頭のおかしい住人がウジャウジャいる… 夜は絶対気をつけろよ… 特に人妻には…」

そして彼はついに遭遇した。
それぞれタイプの異なる性欲を爆発させ、噂通り得体の知れないエロ衣装を装着して淫乱奇行に走る人妻たちに。
ショタコン変態人妻! 自撮りエロ写真バラまき変態人妻! ぬるぬるローションプレイ配管詰まらせ変態人妻! あまりに多い……変態人妻が、多すぎるっっ!

あいつぐ変態人妻事件で毎回のごとく身体をいじりまわされ、貞操の危機におちいるヨシダ。しかし、まだまだ序の口だ。この団地には人妻危険度ランキングでさらに上位へ分類される強豪が何人も潜んでいるのである(人妻危険度ランキングって何!?)。

謎の変態服“リビドークロス”を配って変態人妻の変態性を後押しする黒幕もちらちら見え隠れする状況下、新米管理人に安息の日はいつ訪れるのだろうか……。

団地妻フィクションの移り変わり

いやあ、なんとも奇想天外。変態人妻というフレーズまみれでゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。

団地妻をまるでアメコミのスーパーヴィランのような、あるいは特撮ヒーロー番組の怪人のような強敵の概念にコンバートするさまはよくもまあ思いついたものだと舌を巻かずにいられない。

そもそも人妻、とりわけ“団地妻”を題材とした煽情的なフィクションは今から50年前、日活ロマンポルノの映画『団地妻 昼下りの情事』(1971)がヒットしてシリーズ化したことから隆盛をみせたジャンルである。その舞台仕立ては、現実において高度経済成長期にサラリーマン層を軸とした都市部の人口増加に対応して用意された社宅団地を前提にしたものだ。

夫が仕事に出かけている──では家に残され、ヒマをもてあます人妻は欲求不満でよその男を相手に不貞をはたらくのでは? そんなゲスい想像力がアダルトな方面に極振りされた空間。それが人妻フィクションにおける団地だったのである。

それが半世紀も経つうち、団地という存在はさびれ、住人達は高齢化して衰退の道をたどることになった。日本の経済悪化や少子化など、理由は色々とある。そうするとギラギラした性(生)の欲求を描くポルノと相対的に、枯れた雰囲気、物悲しい趣で影を帯びた想像力、つまり死のイマジネーションも頭をもたげてくる。

具体的には、団地を描くホラーやサスペンスに強い説得力が出せるようになるのだ。

怪奇ホラーの箱庭としての団地

例えば『リング』で有名な中田秀夫監督のホラー映画『仄暗い水の底から』(2002)の舞台となるマンションの外景は横浜の市営住宅団地を撮影したものだし、同監督はそのものズバリ団地を中心にすえた『クロユリ団地』(2013)も撮っている。近年では佐野史郎が主演したテレビドラマで、高齢に偏った住人達が暮らす団地の暗部を暴力的につづったサイコサスペンス『限界団地』(2018)なんてのもあった。

団地とは区切られた土地であり、それは一種の結界のようなイメージを宿しうる。社会の中にありながら独自の秩序をもつ小宇宙的コミュニティは、外から入ってくる者の視点では底の知れない恐さを帯びてもいる。それを極端にディフォルメすれば、“呪われた土地”を描くホラーと接続できるのだ。

ホラージャンル筋には有名な1990年代前半のイタリア・フランスの映画で『デモンズ ’95』という作品がある。墓地の管理人が、夜な夜な這い出してくるゾンビ死人をやっつける日々を描いたシュールな作品だ。これに沿って『淫獄団地』の団地を墓地、管理人ヨシダを墓守に見立てると本作の怪奇ホラーとしての味が腑に落ちやすいだろう。

家庭に縛られたわびしい気持ちから心の腐敗を強いられ、夜更けに野外で若い男を襲う人妻たちは動く死者の哀れに近い情感をかきたてる。

解放治療場としての淫獄団地

だから、変態人妻たちの暴走は劇中でも犯罪行為ではあるものの、抑圧を形にして吐き出すという一点にしぼればいっそすがすがしくもある。

暴力性とケア性を同時にはらんだ、いびつなセラピーのための箱庭としての“団地”概念。夢野久作の小説『ドグラ・マグラ』でいう「地球表面は狂人の一大解放治療場」があらわす超現実の世界観がそこに敷かれている。

先にアメコミのスーパーヴィランを例えに出したが、実際『バットマン』で凶行を働く奇人怪人の精神的ゆがみは本作の変態人妻たちの参照にちょうどいい。ローション変態人妻のローション装備はミスター・フリーズみたいだしね……。

漫画としての表現力にも注目

さて、以上のようなエロとホラーの狭間に立って異色をはなつ『淫獄団地』は、原作に作画担当がつく分担体制で描かれている。

原作者クレジットはサークル「搾精研究所」。ストーリー仕立てのアダルトCG漫画シリーズ『搾精病棟』『搾精学級』(またサークルの旧別名義で『無限射精拷問』)が常識破りのサスペンス展開で注目され、商業ルートへ乗ったクリエイターである。

『淫獄団地』の随所にみられる、「〇〇ですかあああああ!」に類する叫び声を基調とした台詞まわしと圧の強すぎる表情描写は原作サークルの持ち味だが、この場合は作画担当・丈山雄為氏がひじょうにうまくエッセンスを抽出した腕前を評価したい。

リビドークロスというカッコいい名前を冠した変態コスチュームで人妻が大暴れする場面は、単に人物が行動するという域を越えたアクション、活動の映像としての躍動感に満ち満ちて見応え抜群。実際、話数が進むと変態度の高さと戦闘力の高さが比例した人妻が登場しはじめてまっとうな意味でも異能系バトル漫画として楽しめるのだが、それは設定のパワーに負けない漫画表現がおこなわれているからに他ならない。

過激な奇想にあふれた作品設計と、それをビジュアルで倍増させる作画のマリアージュに酔いしれよう。今年最大級の注目作のひとつです。

この記事を書いた人

miyamo

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