2018.12.29
【日替わりレビュー:土曜日】『ふたりモノローグ』ツナミノユウ
『ふたりモノローグ』
2018年12月1日。「サイコミ」で配信されていたWebマンガ『ふたりモノローグ』が完結を迎えた。2016年10月の連載開始から2年余りで、きっちり全100話。内容も話数もきれいな幕引きである。
小学生時代に親友だったふたりの少女、麻績村ひなたと御厨みかげ。彼女たちは過去にある行き違いから離れ離れになった間柄なのだが、高校に上がったおり、偶然にも同じクラスになっていた。ひなたは、ある日「あっ」と気づく。隣の席に座る、いかにも不良なおっかないギャル。彼女は10年前に仲良しだった「みかげちゃん」ではないか!
いったい今までどうしていたのか。聞きたい。お話をして、また仲良くなりたい……が、いまや自分はすっかり腰の引けたネクラな女の子になってしまった。かつて、ふたりが疎遠になるきっかけを作ってしまったのは自分だ。まだ怒っているのでは? からまれてキレられたらどうしよう!? でも……。
一方、みかげはひなたが思いもよらない内心を渦巻かせていた。「ひなたちゃん」がついに自分のことを思い出した様子。気づいてもらえてうれしい! 自分たちは特別な関係、一生の親友だ。ある事情から離れてしまったが、自分は彼女を守れるかっこいいクール女子になるべく10年ずっと努力してきた。落ち着け、落ち着いて声をかけるのだ……!
かくして、陰キャだが意外と芯の強い少女と、見た目派手だが意外にネガティブで弱心臓なギャルが、仲良くなりたい気持ちは同じなのにそれぞれの性格のためにズレた思考にからめとられ、それでもなんとかかんとか距離を縮めていく怒涛のコミュニケーション&ディスコミュニケーション物語が幕開ける。
見どころは地味っ子ひなたがみかげ視点では超絶かわいい天使めいた美少女と認識されている情景。ひなたの一挙手一投足に尊さを感じてはみかげがいちいち死にかける極大リアクションに大笑いさせられる。
「食べてしまいたいくらいかわいい」という強烈な衝動にかられたみかげが顔面をモンスター化させてひなたをおびえさせる図がちょくちょくあって面白すぎるのだが、そこでみかげの怪物ヅラがイメージ演出と思いきやどうも本当に物理的な変化を起こしているのでは……? と思えるところに注目したい。
後になって登場する、ドロドロの破滅的メロドラマ思考の権化・サロマちゃんがドス黒い泥のような影に全身まみれる姿もふくめ、イメージと物理が判然とせず入り混じる絵面は本作の数ある持ち味のなかでもとりわけ“マンガらしいマンガ表現”である。
そのイメージと物理のミックスした表現がついにキャラクター個々の肉体レベルをこえ、ひとつの空間を満たして概念バトルの場を形成するクライマックス(第98~99話)は、壮絶の一語。ぜひ見届けてほしい。
また、キャラクターの心情を追う筋立ては最終回までに波乱があり、ふたりの関係は友人としての好意に加えてみかげが元々抱えていた恋慕を軸にロマンス色を帯びていくことになる。
(恋愛感情としての)片思いをこじらせるみかげがいつ告白にふみきるか……告白するとひなたに引かれて友情が破綻するのではないか……というスリルが長くストーリーの底に敷かれていたのが、ある時点で逆にひなたがみかげに“片思い”を芽生えさせ、ひなたのほうが告白の勇気をもてるかどうかに焦点がスライドする転換は鮮やかで、そうくるかー! と感心に包まれる。
ラブコメ作品全般でしばしば、最初は主人公が高嶺の花に憧れていたのが、途中で相手が主人公に惚れて、逆にそちら視点で主人公の方が憧れの対象として追いかけられるようになる“折り返し”の展開がみられる。『ふたりモノローグ』後半は、そういう折り返しのひじょうに見事な例として今後長らく記憶されるべきだろう。
そして最後の最後、大団円のなかで念を押すように“気持ちは通じ合いつつ思考はズレ続ける”ふたりの姿は、『ふたりモノローグ』というタイトルに対しても、また人と人の歩み寄りを描く物語であることに対しても、とても誠実でグっとくる。
いやあ、ほんとうにいいマンガでした。
©ツナミノユウ/講談社