『あ～んちゃんのあ～ん』

本日のピックアップは、星海社「ツイ4」で連載中のこちら。

説明しよう！ 『あ～んちゃんのあ～ん』とは！ あ～んちゃんがあ～んと言うマンガである！ ……いや、ほんまにそうなのである。

主人公・餅村あん、通称「あ～んちゃん」は10代半ばの多感な少女。マジメだけど勉強は苦手、おっとりしてるのを通り越してモタモタしがちなところがかえってチャームポイント。これが得意という強みは少ないけれど、食欲旺盛な健康優良児だ。

そんな彼女といつも一緒なのが、超クールながら面倒見のいい幼馴染「メシちゃん」と、あ～んちゃんに一目惚れしてなんとか仲良くなりたいと奮闘している「パンちゃん」。

性格は全然違うけれどお互いに友達思いな3人組でわきあいあいと過ごすなか、あ～んちゃんが様々な出来事に見舞われては、いつも喜怒哀楽を「あ～ん」という感嘆の言葉ひとつで表現してオチがつく、ほのぼの愛らしい学園日常4コマになっている。

段重ねのアイスを食べようとしたらバランス崩して落としてしまい、がっかり顔で「あ～ん」。
待ちに待ったアニメの最終回がHDDレコーダの容量不足で録画失敗していたことに気づき絶望で「あ～ん」。
体育の授業で体操着を忘れてしまいスクール水着しか借りることができず、水着でグラウンドに出るも恥ずかしさのあまり「あ～ん」。
大好きな親友メシちゃんと手をつなぎながら見上げる星空の美しさに「あ～ん」……。

などなど「あ～ん」の一語にこれほど多彩なバリエーションをつけられるのか！ と、きめこまかい工夫に感心しきりの上質なコメディを楽しめる。

「○○が××するだけの作品」という言い方は必ずしもいい意味にとられないが、本作の場合、例えば武術でたった一つの技を磨き上げてあらゆる局面に対応する達人のようなものだ。そう、芸がないワンパターンなのではない。一芸を極めたオールマイティなのである。

さらに、そうしたコメディの要所要所に登場人物のソフトな心情をさりげなく垣間見せる瞬間がちりばめられており、そのメリハリが趣を深くしている（おもに百合的な意味で！！）。元々、言葉というのはどれだけ長々と連ねても完全な情報伝達にはならないのだ。

逆に「あ～ん」というたった一つの簡単な、それ自体では意味もない語を繰り返し使うことで、かえってその向こうにある、言葉にならないものをすべて表すことができるというのは逆説的で面白い。

そうした「あ～ん」に集約される趣を支えているのは、なんといっても作者・かねこもとき先生独特のまるっこい絵柄のポップ＆キュートさだろう。マンガにおいて優れた絵柄は、作品の世界を優れて構築する。絵柄というのは物の見え方、世界観のフィルターなので自然とそうなるのだ。

本作は超自然現象が起きるファンタジーなどではなく現実ベースの学園ものだが、「こういう愛らしい世界」がどこかにあって登場人物はその住人である、という懐深い風情がある。

本作の登場人物たちを見ていて一面的な「かわいい」に留まらず「いとおしい」とまで思えるのは、個別のキャラではなく作品世界まるごとが帯びる、牧歌的な豊かさゆえではかろうか。“雰囲気がいい”とはこういう作品にこそ捧げるべき形容だろう。

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©かねこもとき/講談社