2020.09.12

謎生物プリンタニア・ニッポンこと個体名「すあま」と生活を共にする様を描いた、日常SF!『プリンタニア・ニッポン』迷子【おすすめ漫画】

『プリンタニア・ニッポン』

本日は、イースト・プレスのWeb文芸誌「マトグロッソ」で配信中のマンガ『プリンタニア・ニッポン』を紹介したい。

舞台は、いつかどこかの未来。3Dプリンタの要領でペット用の生物を作り出せる“生体プリンタ”なるガジェットが市販されている時代。

ひとりの青年が柴犬を作ろうとしたところ、なぜか動物の種類を指定する前の素体のまま、何ものでもないふしぎな生き物を出力してしまった。どうやら装置のインターフェースに不備があったらしく、同じような事故が世間で多発しているというニュースが目に入ってくる。

ある日とつぜんこの世にあふれでた生物たちは「プリンタニア・ニッポン」と命名されて新種に登録され、人々の暮らしにゆるゆるとなじんでいく……。

というなりゆきを前置きとして、飼い主の青年・佐藤くんが謎生物プリンタニア・ニッポンこと個体名「すあま」と生活を共にする日常SFになっている。

まずなんといっても、プリンタニア・ニッポンたちの造形のかわいいこと!

白くてまるまるでもちもちした胴体に、ぴょこぴょこ短い脚で四足歩行するその姿。目と口を点と短線でちょこんちょこんと打っただけの究極にシンプルな顔でじっとこちらを見つめ、なついてくる様子のあどけなさ。

それはまるでペットの可愛さという概念それ自体を直に取り出したような存在で、特定の動物にしぼられる前の素体の状態で生まれたというギミック上の設定が、見事に絵ヅラへ落とし込まれている。

そして本作の特色は、そうした特殊な生物がメインに置かれていても過度に抜きんでることなく、あくまでもすべてが日常の一幕としておさまる懐の深さだ。

生体プリンタは劇中で一般に普及している家電の一種で、生物を望むがままに出力するという行いにあたり未来の人々は倫理的な衝突を抱かない。登場人物はみな社会的評価によって待遇や居住地をふりわけられる階級制度に近い管理システムのなかにあり、肉体や精神に干渉するテクノロジーを日用品レベルで享受しているが、そのことをディストピア的に描くわけでもない。

現代人の我々読者からみて「おや、この未来世界ではそれが普通なのか」と感じるフックを絵にもセリフにも様々にちりばめながら、きわめて自然体な描写に徹底しているクールさがある。

プリンタニア・ニッポンというユニークな生物を愛でるだけではなく、「そうした生き物がちょっとした事故ていどで生まれてくることが必然的な世界(社会)」という風景まるごとを味わえるこの作品。

公式の紹介テキストでは「SF(すこしふしぎ)」という藤子Fマンガめいたフレーズをあてているが、直球でサイエンスフィクションであると謳ってもまったく問題ないだろう。

なお、単行本の第1巻が2020年9月17日に刊行予定。

最初から一気に読むため発売を待つか、あるいはまずWebで公開されている序盤をチェックしてみて続きを本で、という流れにするかはお好みでどうぞ。

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miyamo

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