『たとえばラストダンジョン前の村の少年が序盤の街の食堂で働く日常物語』

ファンタジー世界の辺鄙な土地にある村で育った純真な男の子・ロイドくん。軍人になりたいという目標に燃える彼は、軍の試験を受けるべく都会へおのぼりする。村でいちばん弱虫な少年の身を案じる村人たちはみな反対したが、憧れは止められない。自分の弱さはいつも痛感している、だけど夢に挑みたいんだ！

しかし、ロイドくんは実際には分かっていなかった。彼が育った村はこの世の猛者たちが最後に行き着くラストダンジョンすぐそばの人外魔境であり、村最弱のロイドくんでも世間一般の基準では反則級の超人的パワーを備えているという事実を……。

謙虚で素直な田舎者の少年が、自分の強さをまったく自覚しないままおそろしい敵をあっさり倒しては周囲を呆気にとらせる逆・勘違いコメディのライトノベル『たとえばラストダンジョン前の村の少年が序盤の街で暮らすような物語』。

同作が、コミカライズやアニメ版でメディア展開を拡げるかたわら派生したスピンオフが、『たとえばラストダンジョン前の村の少年が序盤の街の食堂で働く日常物語』である。

元作品ではロイドくんが士官学校の学生食堂でアルバイトを始め、すぐれた料理の腕前でお店を盛況に導く様子が、大事件の前後の出来事として描かれている。本作はその部分をピンポイントにふくらませた外伝にあたる。

居候先のワケあり魔女・マリーさんや故郷から遊びにくる見た目幼女の村長・アルカなど本編にも登場する人物たちとの交流を重ねつつ、バイト中には食堂へやってくるお客さんを温かく迎えて美味しい食事で悦ばせる。にぎやかな日々を楽しく過ごすロイドくんの姿にほのぼの……というだけではもちろん済まない。

ハニーミルクトーストひとつ作るためだけに数十キロ離れた山奥へ駆けて凶悪な熊モンスターとじゃれあいながらハチミツを採ってくるやら、川魚のムニエルを作るためだけに牛をもたいらげる獰猛な魚モンスターをデコピン一発で気絶させて食材にするやら、“おとなしい顔して無自覚に最強”という主人公のキャラ立てを、バトルではなくグルメ系日常マンガの趣向に集中してあるのが本編と比べた際の特色だ。

食べる人たちへの愛情をこめた味わい深い手料理と、食材や調理方法のとんでもなさとのギャップ。そのギャップにツッコミを入れつつも美味しくいただく登場人物のリアクション──それらで組み立てられた可笑しさは、元作品とは起こる出来事のスケールや方向が違おうとも同じエッセンスで香り立っている。

すぐれた外伝・番外編というのは本編からの単なる枝分かれではなく、根幹となる元作品がどういう面白さをもっているのか改めて照らし返すもの。本作はまさにそういう意味で、読みがいのあるスピンオフになっていると言えるだろう。

なお、連載は「ガンガン」の雑誌上とともにWebサイト「ガンガンONLINE」でも配信中なので、今回いちおうWebマンガ紹介にあたるという事にさせていただいた。Webでは第1話と最新話以外はクローズになっており、今からチェックする場合は2020年12月に第1巻が出た単行本で読むのが手っ取り早いだろう。

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