2021.03.26

キャラクターから舞台設定も幅広く展開される、5編のラブストーリー!『帝の至宝』の仲野えみこ先生による珠玉の読み切り集!『イヴの秘めごと』仲野えみこ【おすすめ漫画】

『イヴの秘めごと』

珍しい白泉社の読み切り集

帝の至宝』の仲野えみこ先生の読み切り集が発売されました。

収録されている作品は5話。ここ最近の読み切り作というわけではなく、各話の掲載年を見ると、一番新しくても2012年、一番古いのになると2005年ですよ。白泉社は他社と違って、読み切り集の出版に対して非常に渋いというか、なかなかお目にかかれないんですよね。

巻末コメントにて、仲野えみこ先生が「読切集は作家さんの濃縮果汁のようで大好きです。」と仰られているのですが、結構時間を置いて世に送り出されるという点ではジュースよりもワインみがあります。

ぶっ飛んだ設定の『イヴの秘めごと』

さて、それでは収録されている物語の内容について触れていきましょう。

一発目に収録されているのが単行本タイトルにもなっている『イヴの秘めごと』。表紙の雰囲気といい、タイトルといい、どこか静かでロマンティックな雰囲気漂っていますが、これがなかなかぶっ飛んだ内容。

優しく人気者の男子・樋泉くんに密かに片想いをしている主人公の白井まゆ。何故だか樋泉くんからは嫌われているようで、まゆ自身も、「例え明日地球が滅亡するとしても、私は絶対に告白しない。」と固く決意をしているのでした。

ところがある日、目が覚めると樋泉くんと一緒のベッドに。なんと、自分たちが眠っている間に、人類がほぼ絶滅したという。さながらアダムとイヴのように、随一の頭脳を持つ樋泉くんと、随一の健康体を持つまゆとで、人類の滅亡を食い止めるため子作りをしてほしいと言われ……というストーリー。

”というストーリー”じゃねーよと突っ込まれそうなぶっ飛び具合でございますが、これを読み切りでやります。すごい。

まあなかなか大ごとにはなっているものの、結局物語が展開されるのは閉ざされた密室であり、トーキングラブコメっぽい雰囲気もあります。ヒロインのまゆが単純で突っ走りがちな性格なので、場もワチャワチャとコメディ要素が強いんですが、最後ズドンと落としてきっちりトキメキも回収していく。

この感じは2作目『ブラックコーヒー』も同様で、こちらは逆に男の子が突っ走る作品となっています。

最も印象に残った『永久天体』

3作目『永久天体』は、個人的に最も印象に残った1作。ここでガラッと絵柄の雰囲気が変わるのですが、それもそのはず、前2作が共に2010年代であるのに対して、本作は最も古く2005年の掲載作。

進路も決まり、卒業を控えた高校3年生が、別のクラスの男子と空き教室で出会い、卒業までの日々を共に過ごすというお話。時代的には丁度自分が高校生ぐらいの時なのですが、当時は携帯は持っているものの、SNSはおろかスマホも無いような世界で、連絡先を交換しなければ相手が普段どう過ごしているのかも分からないような世界です。

本作が面白いのは、2人とも最後まで丁寧語で話し、連絡先の交換もせずに空き教室での他愛もないひと時を積み重ねるという、トキメキだとかドキドキがほとんどないお話なんですよ。

心の揺れ動きをストレートなモノローグで表現するわけでもなく、日々のやり取りと、最低限の心情描写で展開。めちゃくちゃストイックというか、たぶんこれを今の少女マンガでやろうとしてもたぶん出来ないんじゃないかという内容なんですよね。いや、こういう作品久々に読んだ気がするんですが、好きですわ、やっぱ。

幼なじみの恋物語『魔法のゆび』

4作目『ひよこスクランブル』は、妹の保育園のお迎えで出会った、同い年くらいの男の子が気になる……というお話。子供の面倒という要素が加わるため、単純に恋愛をするという感じではなく、恋愛要素は薄め。個人的には一番印象薄かったかな。

5作目『魔法のゆび』は、かつて仲良しだった幼なじみの男女が、中学生になり距離を置くようになるも、心のどこかでは互いに気になっていて……というお話。

これもストレートな恋愛描写は少ないのですが、ヒロインのわがまま美少女感だとか、そんな彼女を優しく静かにフォローする相手役の男の子の関係が噛み合っているというか、幼なじみという背景をしっかりと活かした内容になっており、とても良かった。また内容的に『ひよこスクランブル』のスピンオフとなっていたりというのもポイント高いです。

仲野えみこ先生というと『帝の至宝』のイメージが強いので、全ての物語で主人公たちが日本で制服着てる画ってのは意外というか、1作ぐらいファンタジーありそうと思っていたので、良い意味で期待を裏切られました。

いずれも恋物語ではあるものの、キャラクターから舞台設定などその幅は広く、仲野先生の歴史と試行錯誤を感じられる、満足度の高い1冊となっております。おすすめ。

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いづき

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