2019.03.10

【マンガレビュー】『アルキメデスのお風呂』ニコ・ニコルソン【ぽっちゃり女子×理系男子のキュートなラブコメディ!】

『アルキメデスのお風呂』

『ナガサレール イエタテール』『わたしのお婆ちゃん』といったエッセイ作品の印象が強いニコ・ニコルソン先生が、マンガアプリ「マンガZERO」で連載中のストーリー作『アルキメデスのお風呂』。「マンガZERO」のオリジナルレーベル、「ジヘン」発のタイトルです。

主人公の原陽子は、弁当屋で働くぽっちゃり女子。生活のため、と油まみれになりながらも機械のように無心で唐揚げを揚げる日々を送っていました。そんな中、ある日自宅に帰ると、尽くしてきた彼氏が女性を連れ込んでいるところに遭遇。更には職場でボヤ騒ぎを起こしてしまいます。

意気消沈しきったところで「何のために生きているんだっけ?」自分が誰にも必要とされてない、という思いにまで到達し、駅のホームで飛び込み自殺を図る陽子。しかし、電車に突っ込む間一髪のところで、金髪おかっぱ白バラの花束を抱えた、王子様のような見た目のような青年が助けてくれました。

運命を感じる陽子ですが、彼の対応は非常に淡泊で、「あなたに見えてる世界が全てじゃない 無知で死ぬんですか」と言い放ちその場を去ります。

妙に彼の言葉が心に響き、今後は意欲的になろうとした最中、弁当屋が潰れることに。これを機にと浮気した彼氏とも別れ家を出て、新たな職につくことを決めます。そこで見つけたのが、茨城県東海村にある「アルキメデス陽子加速器センター」、通称「A-PARC」という国営研究施設内食堂の調理スタッフでした。

まるで研究に関して門外漢な彼女でしたが、興味深い科学の世界にもふれ、元々の食や料理に対する意欲を思い出し頑張って働き始めます。しかし、その直後、見覚えのある金髪王子が「この唐揚げを作ったのはあなたですか?」と食堂で言い寄ってくるという衝撃のイベントが発生。

この、王子こと大地学はA-PARCで働く研究者だったため、更なる運命を感じ恋に落ちる陽子ですが、彼の方は全然別のベクトルで声をかけただけでその人柄も職場で浮きまくったキテレツな人物だったのです。陽子はA-PARCで人間として成長していきながらも、はたして王子との恋を成就させることが出来るのか──、理系マインドや物理学のフレイバーをまぶしたラブコメディが終始テンポ良く展開されていきます。

本作の見所はやはり随所に散りばめられた、科学のエッセンス

この作品の舞台となる、A-PARCは実際にモデルがあるそうで、それは本作の監修もしている「J-PARCセンター」こと「大強度陽子加速器施設」のことで、「素粒子物理学」の分野では日本は世界最高レベルらしく、まさに東海村に実存するこの施設は世界トップクラスの実験施設。

そこでの先生の入念な取材や、丁寧な研究者さん達のアドバイスが活きており、ぱっと見では何をしているか分からないような科学者達が、どういった信念や思いを持って研究しているのかなんとなくでもその一部を感じられることができ、またそのロマンに触れられるのはこの作品ならではないでしょうか。

そして、普通に並べるととっつきにくい要素が、食堂の上司・ヨッシーさんや登場人物、また物語自体をとおして柔らかくかみ砕いて紹介してくれています。

陽子と同じように素粒子物理学や科学のことを全く知らないという人こそ、興味を持って読み進められるであろう仕上がりになっておりますので、敬遠することなくぜひ一度お手にとってみてくださいね。

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この記事を書いた人

八木 光平

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