2020.06.29
【インタビュー】『見える子ちゃん』泉朝樹「最初から今まで、ずっと読者に支えられてきた作品」
ある日を境に、この世のものではない「ヤバいやつら」が見えるようになってしまった女子高生・四谷みこ。
しかしみこが取った選択は、彼らから逃げることでも立ち向かうことでもなく──、
それは全力でシカトすること。自分たちが見えていないと悟ったバケモノたちがすごすごと立ち去っていく様は、どこか哀愁を誘います。
単行本は3巻まで大人気発売中、前代未聞のフルシカトホラーコメディ『見える子ちゃん』。いくつものマンガ賞にランクインしている本作が、このたび「第4回みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」でもトップ10に選ばれました!
「第4回みんなが選ぶ #TSUTAYAコミック大賞」
見える子ちゃん7位いただきました!投票してくださった読者の皆さん!ありがとうございます!!! pic.twitter.com/d4CLmU1m7n— 泉【見える子ちゃん③巻発売中】 (@izumi000) June 17, 2020
これを記念して、コミスペ!は作者の泉朝樹先生にインタビューを実施。現在の心境から、『見える子ちゃん』の制作秘話までたっぷりとお聞きしてきました!
『見える子ちゃん』を描く展望は見えていた
──「第4回みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」の受賞、まことにおめでとうございます! まずは今のお気持ちからお聞かせください。
泉朝樹先生(以下、泉):すごくうれしいです。ありがとうございます!
ワタシの地元にもTSUTAYAさんの店舗があって、『見える子ちゃん』の新刊が出たときは「単行本置いてくれてるかな?」といつも覗きに行っていました。そのTSUTAYAさん主催の賞に選んでいただけて光栄です。
──本作は「次に来るマンガ大賞2019」のWEBマンガ部門でもトップ10にランクインしていました。どちらも、読者が投票する形式のマンガ賞という共通点があります。
泉:本当にありがたいです。もともと『見える子ちゃん』はTwitterに投稿した4ページマンガがバズって連載化された経緯もありますし、読者さんに支えられている作品だと感じています。
──それでは、『見える子ちゃん』を描こうと思ったきっかけからお伺いできますか?
泉:単純に、まわりの作家さんたちがTwitterにマンガを投稿して次々にバズっているのがすごく羨ましかったんです。ワタシもバズりたい! あわよくば連載化して単行本も出したい!と思い、そこから何を描こうか考えはじめました。
いくつか案はあったんですけど、うちの奥さんに相談がてらプレゼンしたところ「女子高生がヤバいのを無視するやつ描け」と言われて。『見える子ちゃん』というタイトルも奥さんがつけてくれましたし、原案協力と言ってもいいくらい助けてもらいました。
──単行本1巻のあとがきに「双子の兄弟と双子の姉妹のドタバタバイオレンスコメディ」と「ヤバいのが見えるようになったJKが全力で見えないフリする話」の案があったと描かれていましたが、後者になった決め手は何だったのでしょうか。
泉:双子の話は、ワタシの中でもコンセプトが固まってない状態でプレゼンしたせいか即却下されてしまいました。今にして思えば、『見える子ちゃん』を描くことになったのは必然だった気がします。
──泉先生の中でも、『見える子ちゃん』のアイデアが最も展望が見えていたんですね。
泉:そうですね。以前はバトルマンガを描いていたこともあって、クリーチャーを描いたりデザインを考えたりするのが大好きなんです。
『見える子ちゃん』はホラーなのでジャンルこそ違いますけど、色々なヤバいやつらが出せて楽しそうだし、このマンガがうまくヒットすれば「怖いバケモノが描ける」ことを自分の強みとして堂々とアピールできるようになるんじゃないかと。
──そうしてTwitterに投稿された第1話が、5万RT、16万いいねを記録しました。いわゆる「バズったマンガ」の中でも、ここまで拡散されたものは珍しいと思います。
泉:やらしい言い方ですけど、投稿する前からある程度バズるだろうなという手応えはありました。会心の出来というか、自分で読み返してもめちゃくちゃ面白かったですし。とはいえ、あそこまで反響があったのは予想外でしたね。
久しぶりにホラー?漫画描いたよ。怖いようで怖くない、いや怖いかも知れないあるあるJK漫画だよ! 【見える子ちゃん】 pic.twitter.com/idnIztSIBq
— 泉【見える子ちゃん③巻発売中】 (@izumi000) September 6, 2018
その第1話を投稿したあと、いくつかの出版社さんからオファーをいただいて。中でも最初に声をかけてくださり、言葉のひとつひとつに熱意を強く感じたKADOKAWAさんで連載させてもらうことに決めました。
──担当さんは、『見える子ちゃん』のどのようなところに魅力を感じてオファーを出したのでしょうか。
担当編集:何といっても第一に、画力の高さですよね。女の子のかわいさとバケモノのおぞましさ、これだけ相反する絵柄を描き分けられる方はそうそういないぞと。
もうひとつは、話の広がりが出せそうということ。『見える子ちゃん』は基本的に1話完結のホラーコメディですけど、縦軸ともいえるメインテーマを据えることで、さらにたくさんの人に読んでもらえる作品にできるんじゃないかと思いました。
──『見える子ちゃん』というタイトルは奥さんがつけられたとのことですが、他の候補はありましたか?
泉:いえ、これ一択でした。もともとワタシはタイトルにあまりこだわりがなくて、『見える子ちゃん』というタイトルも個人的にすごくしっくりきていたのでありがたく使わせてもらいました。
連載化するにあたって担当さんとタイトルを変えるかどうか打ち合わせしたときも、「『見える子ちゃん』のままで行きましょう!」と強く推したのを覚えてます。
担当編集:この作品の主人公は「みこ」という名前ですけど、今でもみこじゃなくて「見える子ちゃん」と呼んでる方がいるくらいですしね。それだけ読者さんにも受け入れられているタイトルをそのまま使うのはとてもよいことだと思います。
泉:それは、第4話くらいまでみこの名前を書いてなかったのが原因かも(笑)。「四谷」という名字もですけど、他のキャラクターたちに名前を呼ばせる必要が出てきてからあとづけで考えました。
──ちなみに、「みこ」という名前は「み」える「こ」から取ったのでしょうか?
泉:そこが直接の由来というわけではないのですが、とはいえ、タイトルから離れすぎない名前にしようとは考えていました。
すでに読者さんからも「見える子ちゃん」と呼ばれてましたし、何の関連性もない名前が急に出てくると違和感を感じる方もいるかなと。「そういえば本名あったっけ?」とスルーしてもらえるくらいでいいと思って、いくつかの候補の中から「みこ」になった感じです。
──みこのキャラクターデザインについても、こだわりポイントがあれば教えてください。
泉:これは、完全に自分の好みです。ワタシはキャラデザをあまりやらなくて、ネームでざっくり描いたときの見た目がほぼそのまま原稿になるんですけど、第1話のネームの時点で無意識のうちに黒髪ロングで下まつげの女の子を描いていました。
──サブキャラクターもそれぞれ魅力的ですが、泉先生がお気に入りのキャラはいますか?
泉:みこの友達のハナは好きです。みこがどちらかというとおとなしいタイプなので、明るくて元気なキャラクターがいてくれると助かるなと思って考えました。
描いているワタシが言うのも何ですけど、みこの置かれている状況って相当きついじゃないですか。ハナがいるからみこもがんばれるというか、いなかったらとっくに心が折れている気がして。だから、いつもみこを支えてくれてありがとうという気持ちですね。
──読者人気が高いキャラクターは誰ですか?
泉:やっぱり、主人公のみこはみなさん応援してくれていると思います。「かわいい」「守ってあげたい」と言ってくださる方もいれば、「幸せにしてあげてください」と切実なメッセージをいただくことも……。
あとはゴッドマザーとかアナコンダ穴熊とか、めったに出てこないキャラが妙に人気だったりもします。特にアナコンダ穴熊は、1コマ描いただけでも「穴熊キタ!!!」ってやたら反響があったり。
──アナコンダ穴熊は、出番は少ないですが要所要所でみこを救っている気がします。
泉:動画を観たりプロレス技を真似してるだけで、穴熊本人は何もやってないんですけどね(笑)。ハナとは別の意味で精神的な支えになっているのかもしれません。
©泉朝樹/KADOKAWA
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