2019.05.03
じんわりと心に届くような読後感に満ちた、優しく儚く悲しい感動の短編集『きのう、きょう、あした』如月園【おすすめ漫画】
『きのう、きょう、あした』
有名人の訃報や、事故のニュースに触れたりすると、「自分はあとどれぐらい生きて、どうやって死んでいくんだろう」なんてふと考えて、漠然と怖くなったりするんですが、そういう経験ないでしょうか?
本作『きのう、きょう、あした』は、そんな命のタイムリミットが可視化された世界が舞台の物語です。
人間の頭上に表示される、時間・分・秒。それは、その人の命の残り時間。生まれた瞬間にカウントダウンがはじまり、ゼロになったら死ぬ。親は生まれてすぐに、その子が100歳超えても生きるのか、10代で亡くなってしまうのかわかるし、本人も物心つけば自分の寿命を知る、少し残酷な世界。
どうやったってカウントダウンを止めたり遅らせることは出来ないため、人々はその不条理さを自然と受け入れながら生きている……。
物語は、そんな世界に生きる4組を1話完結形式で描いていきます。余命一週間の転校生と仲良くなる男の子。若くして死ぬ予定の幼馴染を苦しませずに殺そうとする研究者。カウントの数字が7並びになって縁起が良いとナンパされる女性。祖母との別れに直面し落ち込む兄妹……。置かれた状況、関係は様々。
描かれるのは恋物語であったり、家族愛であったり、もっと特別な関係性であったりと様々なのですが、そのどれもが言いようのないじんわりと心に届くような読後感を与え、気持ちを無防備にしていると思わず泣かされてしまいそうになります。危ない危ない。元々如月園先生は心掴む物語を描く漫画家さんだったのですが、本作はこれまでに感じたことのない感覚があるというか。
それぞれのお話で共通しているのは、そのどれもが、残される側からの視点で描かれているということ。そりゃあそうだ。だっていま生きている私達は、全員残された側なのだから、共感できるに決まってる。
いや、でもそんな安易な視点選択ひとつでこんなに心の深いところまで浸潤してくる物語になるかというと、そうではないでしょう。
ここでふと帯に目をやると、『アオハライド』『思い、思われ、ふり、ふられ』の咲坂伊緒先生が「如月さんの描くお話は圧倒的に優しくて…」と書いてあることに気づきます。
うん、如月園先生の描く物語は、ずっと前から優しくて優しくて優しくて……とにかく優しかった。今回も悪意に満ちた人物は一切登場しない、優しい世界が変わらず描かれているし、これまでもそうやって感動してきた。でも今作は、それだけじゃないんだよなぁ…。なにか違うとしたら、それは”死”だ。
如月園作品の根底に流れる優しさに、抗うことの出来ない死に対する諦めによる儚さと、残される側の悲しみが混ざり合って、これまでとはまたテイストの異なる感動が生まれている。それに咲坂伊緒先生は泣かされて(いるのかはわからんけど)、自分もまた泣かされそうになったわけだ。
ここまで色々と書いてきて、読み切り形式だから大したネタバレも出来ずストーリーに踏み込めないし、自分の伝える力の無さに改めて愕然としているんですが、とにかくこの作品、もっと多くの人に読んでもらいたい。
個人的には上半期でも上位の良さで、自分の力で余すところなくそれを伝えたかったんですが、力不足でした。私が勧めたところで全国で2人ぐらいしか「読んでみよ」って思わないかもしれないですが、咲坂先生も激賞してるから。だから信じて。私のことは信じなくてもいいから、咲坂先生を信じて、そして読んでみて。『きのう、きょう、あした』、おすすめです。
©如月園/集英社