2019.06.01
「香道部」の匂いフェチな女子中学生たちが繰り広げる学園コメディ!『もんこ~ろ』木村光博, 太田ぐいや【おすすめ漫画】
『もんこ~ろ』
本日は、実業之日本社「COMICリュエル」で連載中のWebマンガをご紹介。
ゲームやアニメからラジオまで幅広く手がける脚本家・太田ぐいや先生が原作、『デュラハンちゃんはくびったけ』や『小林さんちのメイドラゴン』のスピンオフ『カンナの日常』の木村光博先生が作画の『もんこ~ろ』だ。
ある日、中学2年生のお嬢さま・未音(みおん)が電車内で痴漢に遭ったところを1年生の淡路彗湖(あわじ すいこ)が助け、その後すぐ学校で再会した。聞けば未音はとある芸道における流派の跡取り娘で、自分が嗜むものを学校の部活に復活させたいのだという。
それは、“香道”。室町時代に武家・公家・禅僧らが交流して融合発展した文化(いわゆる東山文化)の一角として茶道や書画に並び、今なお受け継がれる由緒正しい芸道だ。
まず小さな炉に熱した炭を入れ、灰の上へ薄く切った香木をのせる。すると温められた香木から、気品ある香りが漂いだす。その香りをじっくり感じ取り、ときには何の香木を使ったのか判別する遊びに興じる──このうえなく幽玄なアートの世界だ。
さて、そんなお嬢様に対して彗湖はといえば、実は彼女も香りに関係する事情を抱えていた。ただしこっちは意識の高さ皆無のド直球な身体的欲求。ひとの体臭、とくにワキガが好きで好きでたまらないという変態嗜好の持ち主なのである!
彗湖から執拗にワキを狙われドン引きする未音だったが、入部すれば嗅がせるのを考えてもいいと取引に持ち込み、うまいこと部員ひとり確保に成功。しかし頭数がまだ足りない。未音の最大目標は、香りを判別する当てもの競技「組香(くみこう)」の全国大会出場と優勝なのだ。ところが続けて遭遇したのは油性ペン・木工用ボンド・車の排気ガスなど人工的な匂いをキメている伝説の不良・南蜘蛛絢生(なぐも あやき)という、またも濃すぎる人材。
癖の強いメンツを仕切らねばならない未音の香道部、先はまだ長く厳しい……。
という具合に、匂いフェチをもつ女子中学生たちがちょっぴり百合風味もあるドタバタ騒動を繰り広げつつ、“香道”にいそしむ学園部活コメディとなっている。
タイトルの「もんこ~ろ」は、上で述べた炉の呼び名「聞香炉(もんこうろ)」から。そう、香道では「嗅ぐ」とは形容しない。漫然と香りを吸い込むのではなく奥底へと鋭く心を働せ、香りがもたらすイメージまでつぶさに体験する。まるで美しい音楽に耳を傾けるように、聞香(もんこう、ぶんこう)すなわち「香りを聞く」のだ。
そんな優雅な香道の空間に、くんかくんかスーハ―スーハ―と匂いを嗅いでトリップするフェチを投げ込むカオスな情景が本作のユニークなところ。第2話、朝の身支度のシーンを見てみよう。キンモクセイを焚いて身体に清廉な香りをつける未音の優雅なふるまいと、足を蒸れさせ匂いを熟成すべく靴下を三枚履きにしてウキウキな彗湖の対比。なんとも作品をよく象徴する図となっている。
ところで、本作が香り(匂い)を題材とする点に関して、マンガそれ自体にからめてひとつ考えてみよう。
基本的にマンガは絵図と文字の組み合わせを目で見て読む視覚メディアである。しかし、ごはんに舌鼓を打つグルメマンガ、音を奏でて耳で聴く音楽マンガ、肌身に触れる行為を描くアダルトマンガ、そして香りを楽しむ本作のように、味覚・聴覚・触覚・嗅覚を描くことが可能なのはみなさんご存じのとおり。
目から入る以外の情報をあつかえないのはメディアの限界だが、裏を返せばそこには他の四感を視覚情報に置き換える工夫の生まれどころがある。人物のリアクション、解説セリフ、比喩的イメージ、擬音の文字、集中線やトーンを使った画面効果など様々な経路を介して、マンガは味・音・手触り・匂いを目から受け取る表現に翻訳できるのだ。
「香りを聞く」世界を「マンガで読んで」それをまた読者の感覚で香りとして受け取る、という複雑なコンバートが『もんこ~ろ』でどのようにおこなわれているか。みなさん実際にお読みになって「吟味」していただきたい。
©木村光博,太田ぐいや/実業之日本社