2019.06.15
BLカップリング趣味で繋がる「絵師×ファン」のガールズラブストーリー!『神絵師JKとOL腐女子』さと【おすすめ漫画】
『神絵師JKとOL腐女子』
都会の会社づとめで見目麗しい成人女性にしてBLマニアの「アイ」こと相沢が、とあるアニメの男子カップリングを愛好するにあたり理解者のいない環境で心の支えにする存在。それはSNSでフォロワー4万人を越える人気“絵師”、「ミスミ」さんだ。
一方、その「ミスミ」はリアルだと地方暮らしの女子高生で、同一ジャンルのオタ友がおらずネットの投稿イラストも気合を入れてトンがった二次創作ほどフォロワーの反応が鈍いという悩みどころがあった。そんな彼女とがっつり解釈が合い、毎回リプライでうれしい感想をよこしてくれる「アイ」さんはつい特別に意識する相手である。
そんな二人が、ミスミの同人イベント参加をきかっけにリアルで初対面。ミスミさん若くてかわいい! アイさんすっごい美人で大人! お互いにイメージと違いすぎてびっくりした2人とも脳みそがテンパり、まずはアイから端的すぎる一言が飛び出す。
「好きです!」
この一言が引き金となり、不思議なモヤモヤした気持ちにハマったのがミスミのほう。やがてSNSでアイからコメントが来る来ないに泣くほど一喜一憂するようになった彼女は、次のイベントで思いあまって逆告白を敢行する。
「私とお付き合いしてくれませんか!?」
はい、よろしくお願いします! ……かくして、BLカップリング趣味が「絵師×ファン」をとりもつ女子カップルのラブコメディが幕開ける!
特定のジャンルを舞台にしたマニア生態コメディとして楽しく、また恋愛物としては「尊敬する相手と恋仲になり、お互いの立場を再定義していく」という軸は鉄板。それでいて本作には独特の鮮やかさを生む切り口もある。
まず、憧れの方向づけ。自活している立派な大人のアイが、まだ若い女子高生のミスミを「神」と崇める姿は極端でコミカルながら、ネット上の付き合いではリアルの社会的ステータス格差が一旦なくなったり、時には逆転するのは実際あるよな~と説得力も備えている。
また、テレビ放送作品を見てネット上で交流する流れのなか、リアルタイム視聴に向けた気分の盛り上がり・放送後のスピード勝負になるファン活動・最速でSNSにコメントをつける人間の熱量などなど、生の時間感覚をとらえる手際もお見事。第3話はまさにそれをメインにしたエピソードで、せっかくだから惚れた相手と同じものを同じ時に共有したいと願うミスミの健気さが、舞台仕立てときれいに噛みあっており必見だ。
そこで特におさえておきたいのは、ふたりの関係が「クリエイターとファン」の形をとりつつ、実際は「ある作品へのファンと、そのファンへのファン」かつ「ファン同士」である点。一次作品の前ではアイもミスミも一介のファンであり、ふたりは同好の士として“対等でもある”のだ。この絶妙な多層性とバランス!
バランスと言えば、「恋愛が成立するかどうか」「これは恋愛感情なのか」の重心が女同士なのに云々ではなく、神あつかいしている相手とそんな仲になっていいのか……というところに集中するのも潔くてよいところ。BLにしてもGLにしても同性間の恋愛であること自体を、どのていど悩みに負わせるかは作家のさじ加減しだいで、あえて一切取り沙汰さないのも世界観として強い武器となる(岸虎次郎先生の『オトメの帝国』とかいいですよね……)。
さて、最後になったが作品情報をご紹介。
つい先日に初単行本が出たばかりの本作は、2018年のなかごろTwitterやPixivで発表され注目を集めたのち、同年12月終旬から「ヒーローズ」のWEBマンガレーベル「ふらっとヒーローズ」で連載されているWebマンガである。作者は、時間停止SFとガールズラブをかけ合わせた良作『フラグタイム』のさと先生(祝・アニメ化決定!)。週刊少年チャンピオン読者なら『りびんぐでっど!』のさと先生と言っても通りがいいだろう。
だが、ここで紹介するなら最初期へさかのぼって『いわせてみてえもんだ』のさと先生、と言っておきたい。
これはとあるマンガの男キャラそっくりな少年と、その少年にキャラクターへのなりきりを求めて彼女になった女の子との紆余曲折する人間模様を描いた作品で、フィクション図像への情熱、それを体現する存在との交流、崇拝的な憧れ、幻想、恋心……と要素要素で『神絵師JKとOL腐女子』に照らせるものがあるので、いま改めて注目したい一作だ。
ただしこの場合、似て非なるの「非なる」もよく掬い取りたい。『神絵師~』は上に書いたとおりファン同士のお話でもあるので、対等さが最初から織り込まれている点が『いわせてみてえもんだ』との機微の違いとなる。そもそも同年代男女ラブと年の差女女ラブで大前提から組み変えているしね。
それら込みで、“『いわせてみてえもんだ』オルタナティブとしての『神絵師JKとOL腐女子』”──という形容をもって今回の〆としたい。
©さと/ヒーローズ