2019.07.12
本物の「推し」俳優が自宅に押し掛けてきて、愛を迫られる!?『推しが我が家にやってきた!』慎本真【おすすめ漫画】
『推しが我が家にやってきた!』
慎本真先生の『推しが我が家にやってきた!』の第1巻が発売されました。
「推しが我が家にやってくる」という言葉から、どういうシチュエーションを想像するでしょうか? ひょんなことから憧れのアイドルとまさかの同居生活とか、本物とは言わずとも推しのそっくりさんとの同居とか、2次元キャラが突然現世に顕現しちゃったとか、なんかそんなイメージっすかね。
本作の場合、ちょっと違います。こう、なんていうか、もっと字面通りに推しがやってくる感じ。
玄関開けたら芸能人が
物語の主人公は、人気俳優・佐久間葵(通称さっきゅん)を長年応援し続ける20歳の大学生・すみれ。生活の中心はとにかく、さっきゅん。
お金、時間、愛情……持てる全てをさっきゅんに捧げる、筋金入りのファンでございます。ある夜、突然玄関のチャイムが鳴ったと思ったら、そこには何故かさっきゅんの姿が。しかもいきなり「結婚を前提にお付き合いしてください!」と、迫られて……というストーリー。
はい、無茶苦茶です。デビューから10年間追いかけ応援し続けた芸能人が突然現れて、愛の告白をしてくるんですよ? TV番組の『モニタリング』でもさすがにこんな雑なドッキリしないです。もちろんドッキリでもなんでもなく、マジです。
ファンからしたら比喩じゃなく本当に天国行っちゃうレベル。もう役満じゃないですか。スタートして2ページで fin… ですよ。これ以上物語を広げられません。だって広げる必要がないですもの。でも広げるんですよ、この作品は。
ポジティブモンスターとこじらせファン
ヒロインのすみれは、さっきゅんにとっては初めてのファンの子で、はじめてもらったファンレターを支えにこれまで頑張ってこれたという背景があって好きなんです。まあ会ったこともない子を好きって言ってる時点で結構アホというか危うい感じなんですけれども、そんなところ含めて純粋で尊い感じに映るという。
もちろん全く前情報が無いわけではありません。ファンレターでの自分語りや個人情報(住所とか)はもちろんのこと、SNSでの動向チェックなども欠かさない、ファン顔負けのフォロワー力で、すみれの状況をいろいろ把握しているという、ピュアにヤベえやつ。そして好かれているという自信があるから、めちゃポジティブに迫るんですよ。「推し」というか、むしろ「押し」感があります。
で、満を持して彼女のもとを訪れた結果、返事はまさかの「No」。その理由は、一生ファンでいたいから。筋金入りのファンゆえに、自分が彼女になってしまうことで生まれるであろうデメリットのアレコレを考えてしまい、全くなびきません。なんなら冷たく当たるし、会いに来られることすら拒否します。
これぞこじらせたファンの鑑。直接関係を持たず、離れて眺めて、間接的に応援をすることを徹底するという。
夢物語の中で光る”リアル”
もちろんさっきゅんもヤベえやつなので、全くめげずに怒涛のアタックを仕掛けるんですが、すみればドキドキしながらも全てガード。この攻防がアホらしくも、すみれの行動の根底にある、“ファン”という存在の不自由さや素晴らしさ、物悲しさといったものがリアルに凝縮されていて面白いんですよね。
導入からも分かる通り、完全にファンタジーで夢物語なんですけれど、ファン心理だけは悲しいぐらいに本物であり(もちろんそれを肥大化させてはいるけれど)、それが面白さの源泉となっているのです。様々なイベントは発生するものの、描いているのは一貫して、融通の効かないファン心理の歪みであって、それ一本でどこまで物語を転がすことができるのか見ものです。
©慎本真/フレックスコミックス