『この恋は手に余る』

学園物BLで、教師と生徒のカップリングです。鉄板の王道シチュエーションと言っても過言ではないでしょう。

ここ数年、BL業界ではいろいろあって学園物が減った気がしていましたが、少し勢いを取り戻してきたかもしれません。学園物が大好物の腐女子としてはありがたい話です。

今回のカップリングは、「恋愛に本気になれない教師 × 一途でウブな高校生」という組み合わせとなっております。

高校教師の伊住は、軽い気持ちで教え子の律に「俺と付き合ってみるか」と声を掛けてしまうのですが、ずっと伊住が好きだった律はその一言に食いつきます。まさに渡りに船という感じのお誘いだったのです。

意図せず生徒の一本釣りをキメてしまった伊住は大いに焦りますが、もちろん手遅れです。恋愛経験のなさそうな律ですが、押すだけかと思いきや、無意識に駆け引きめいたこともするし、何より一途で情熱的です。

過去に生徒に好きになられてうまくあしらえずにその生徒を不登校にしてしまったことがあり、本気の恋愛には及び腰の伊住でしたが、ずっと自分に向けられる好意をむげにし続けることができません。どんどん、律に惹かれて行ってしまいます。しかし律はまだ十代です。今はよくてもすぐに飽きて離れていってしまう可能性が高いのです。

お互いにはまってしまって、別れるときに双方が負うであろう傷が怖い大人の臆病さが、理解できるし愛おしいです。

伊住は実家の都合で来年には地元に戻ると決めており、そのタイミングで律とは離れるつもりでした。離れようとしたときにはすでにしっかり律のことが好きになっており、手遅れとしか言いようのない状況でした。

それでも伊住は律から物理的な距離を置くことを決めます。律の志望は、地元の高偏差値の難関大学です。距離があき、律が大学生活を始めれば高校時代の一時の気の迷いなどすぐ忘れられるはずです。

それに納得せず、力技で伊住のおこうとした物理的距離をぶっ飛ばしたのが律です。伊住に黙って、いつの間にか伊住の地元の大学に志望校を変更していたのです。それよく親御さんが許してくれたね！？ という大技です。

伊住がそれに気づいたのは合格発表後。もはや清々しいまでに手遅れです。年下の男にここまで本気を見せられたら、もう折れるしかありません。律の若さと情熱が勝ち取った勝利と言えるでしょう。

人生経験が子供より多くてその分いろいろ見て臆病になる大人と、一度決めたらすべてをなぎ倒して一直線の高校生。うまい具合に凹凸がハマった感じがします。

高校在学中はキスまでで終わった二人ですが、卒業後は描き下ろしで遠慮なくお洋服を脱いでいるので、肌色パートのBL要素もしっかり堪能できると思われます。教え子にキスってけっこうアウトなんでは……という気がしないでもないですが、ここはフィクションということで許していただきましょう。

学園BLの鉄板萌え要素が楽しめる作品です。ぜひぜひ、萌えのストライクゾーンをかすっていそうな気配を感じたら手に取ってみてください！

©篠崎マイ/コアマガジン