2019.10.25
ピアノを通じて心を通わせていく、ド直球のピュアな青春ストーリー!『恋の音、みつけた』赤池うらら【おすすめ漫画】
『恋の音、みつけた』
心が疲れている時、ピュアな恋物語を読むと異様に心に刺さって、トキメキ通り越して泣けてくることってあるじゃないですか。え、ない? うそ、あるでしょ?
これが多くの人に現れる現象なのかは分かりませんが、久しぶりにそういう感情に見舞われたので、その作品を紹介したいと思います。赤池うらら先生による『恋の音、みつけた』でございます。
前作『はじめてのキス』が、1話読み切り形式でキスをテーマに据えたオムニバス集だったんですけれども、短い中でキスまで持っていかなければいけないという制約があるにも関わらず、どのストーリーも恐ろしいほどにピュアすぎるほどにピュアで、度肝抜かれたんですよね。
で、2作目ということでどういうお話になるのかなぁと思っていたのですが、今回もド直球のピュアな青春物語で、まさに期待通りといったところ。
物語の主人公は、高校1年生の花渕ちなり。音大附属高校のピアノ専攻を受験するも不合格となり、ピアノの道は諦め普通科のある高校へ進学。母がいないため、父と兄のために家事に追われる日々を送っています。
ピアノはダメだったし、家事をしても誰も褒めてくれないし……そんな満たされない日々の中、彼女に「すごい」と声をかけてくれたのが、兄の高校の友達で、将来を嘱望されるピアニスト・藤原一菫(いっき)で……というストーリー。
ヒロインのちなりは真面目な頑張り屋だけれど、不器用で引っ込み思案な性格がたたって、貧乏くじ引いちゃうタイプの女の子。誰よりもピアノが好きだけれど、音大附属に兄は合格して、自分は不合格……といったところに、彼女の性格がよく出ているように感じます。それゆえに自己肯定感も低めで、何事においても自信が無いといった感じ。
そんなところに現れたのが、ちなりに全方位から承認を与えてくれる一菫。その褒めっぷりったらものすごいです。
ちなりが気を利かせて焼いたクッキーを「美味しい」なんていうのは当たり前。掃除の行き届いた家を褒めるし、楽しそうにピアノを弾く姿を褒めるし、もう何をしても全肯定。それも下心とか偽善めいたところも感じられなくて、純粋に心から褒めている感じが溢れ出ているんですよね。
ピアニストとして有望というところから、感性豊かなのかもしれません。一言で表現するならば「圧倒的に無邪気」。無邪気ゆえか、身体的な距離感も近くて、頭なでなでとかハグとかひょいひょい飛び出すから恐ろしいです。
この純粋さ(=心の距離)と、それに反してやけに近い体の距離ってのがアンバランスに同居していて、やたらとドキドキしてしまうのは、『はじめてのキス』でもあった見どころの一つと言えるでしょう。
心が渇いていた時に、とんでもない潤いが与えられるわけですから、そりゃあもうちなりは心掴まれちゃいます。恋なんてしたこともないようなピュアっ子なので、褒められたら嬉しいってことで、あれやこれやと一菫のために頑張っちゃうんですよね。
冷めた男だったらちょっと引いちゃうぐらいのことをしたりするんですけれども、一菫はそれらを全部受け入れるどころか、想像の上を超えて喜んでくれるという圧倒的好循環。一菫は一菫で、ちなりに好意を抱きつつあるので、1巻にして「え、もう完結でよくね?」と言えるぐらいには順調です。
この後に色々と関係がもつれる出来事が起きたりするんでしょうが、崩れる画が想像できない…。2巻以降、そこをどうあの手この手で崩しにかかるのか、要注目です。
何はともあれ、圧倒的にピュアで承認されまくりな、この上なく尊い恋物語、心が疲れている人もそうでない人も、オススメですのでぜひご一読あれ。
©赤池うらら/講談社