2019.11.15
複雑な人間関係を絡めながら、明治末期の百貨店を再建する様を描いたヒューマンドラマ!『日に流れて橋に行く』日高ショーコ【おすすめ漫画】
『日に流れて橋に行く
日高ショーコ先生による、『日に流れて橋に行く』の3巻が発売されました。
物語の舞台は、明治末期の日本橋。かつて大きな賑わいを見せていた老舗呉服店「三つ星」。その三男・虎三郎が、三年ぶりに英国から帰国する。
意気揚々と新しい「三つ星」を作ろうと意気込むものの、店の者からは全く歓迎されず、さらには優しくしてくれていた長男で当主の存寅は、大量の借用書を残して突如として姿を消してしまう。いきなり窮地に立たされた「三つ星」の運命やいかに……というストーリー。
明治末期の百貨店再建ストーリー
「呉服屋」というと着物屋を想像するかもしれませんが、位置づけ的には百貨店の前身。”日本橋の百貨店”と聞けば、一つ二つ思いつくのではないかと思います。「三つ星」あくまで架空のお店ですが、ライバル店は実在したお店がモデルとして描かれており、そんなところがリアリティさを醸し出します。
「三つ星」は老舗ではあるものの、時代に取り残され、積極的な事業展開を見せる他店に水をあけられ、経営危機に瀕しているという状況。そんなピンチに、海外帰りの若き三男坊が、あれやこれやと「三つ星」復活のために奔走するお話です。
虎三郎とともに立て直しの中心となるのが、同じく海外帰りで資産家の息子・鷹頭と、ファッションに興味があり、その素質を見込まれて女性店員としてスカウトされた時子。
様々なアイデアを出して、経営の舵取りをするのが虎三郎であれば、それを資金面でバックアップするのが鷹頭、そして少しずつ変わりゆく「三つ星」において、当時は珍しい女性店員として、店の象徴として成長してゆく時子といった関係性。
爽快なビジネストーリーと複雑なヒューマンストーリー
伝統だ慣習だなんだと、立ちはだかる古臭い数々の障壁を前に、新進気鋭の尖った若者たちが、時に強引に、時に老獪に戦略を仕掛ける様がまず爽快ですし、それらの戦略が次々とハマり、少しずつ「三つ星」が生まれ変わっていく様子が、読んでいてめちゃめちゃ痺れるんですよ。まさにお仕事もののツボをおさえた内容となっています。
そんな順調な事業とは裏腹に、人間関係は複雑で、物語に深みを与えます。失踪した長男と、外に出された次男とをめぐる、虎三郎との関係。
鷹頭は切れ者ですがいかにも裏がありそうな商売人という感じで、行動の数々がとても怪しい。なんとなく時子に気がありそうな感じもあり、いちいち目を引きます。また時子はこれまで色恋とは無縁ながら、とある男性に見初められ猛烈アプローチを受けるという恋愛的要素もあったりと、「家族関係」、「友情」、「恋愛」と盛りだくさん。
まるで朝ドラのよう
ちなみに導入こそ「男たちの物語」といった感じで始まった本作ですが、話数を重ねるごとに時子の存在感が強まっており、3巻ではすっかり主人公のようなポジションに。
バイタリティのある女性が、逆風吹きすさぶ中でも奮闘し、仕事で結果を残していく……そして、その傍らではしっかりと素敵な恋をして……というのは、時代感も相まってさながらNHKの朝ドラのよう。
歴史ものかつビジネスものという側面があり、ともすれば重たくなりすぎかねないストーリーなのですが、実際に読んでみるときちんと読み応えはありつつも、物語は堅すぎず重すぎずで絶妙に読みやすい。
いや、やっぱり面白いです、コレ。全方位にオススメしたい、良作でございます。
©日高ショーコ/集英社