2020.06.10

好きになった「殺し屋」の彼女に、もう一度会いたい。だから自分を暗殺するよう仕事を依頼した。『きるる KILL ME』叶恭弘【おすすめ漫画】

『きるる KILL ME』

彼女に再び会いたいから、僕の殺しを依頼する

好きになった殺し屋の彼女に、もう一度会いたい。だから自分を暗殺するよう仕事を依頼した……まるでサイコパス診断の模範解答のような展開から始まるこの作品。主人公の狂気がもたらす、命がけのラブコメディだ。

碧音持(あおい・ねも)は日本屈指の医療系総合企業「碧ホールディングス」の代表。あらゆる博士号を持ち、財界にも顔が利く超エリート。彼が一目惚れしたのは赤海きるる。会えたのは一度だけ。なんとかして再会したい。

自分が彼女に夢中になってもらうにはどうすればいいか、というのを考えていた時にきるるの仕事が殺し屋だったことを知る。かくして音持はきるるに仕事を依頼。ターゲットは音持。必然的にきるるの視線は音持に向く、という寸法。

あの手この手で殺しを仕掛けてくるきるると、彼女に何度でも出会うため殺されない術を駆使する音持のやり取りが、ごく普通の日常の如くカラッと描かれているのが楽しい。

きるるの殺しの手段はほぼ完璧なはず。刃物が得意な彼女は一瞬で喉元にナイフを突きつける体術の持ち主。時にマッサージ師に、時に看護師に、何にだって変装してどこにでも忍び込める。スナイパーライフルで遠距離から額を射抜く技術も持っている。

それでも音持は、きるるに会うために死なない。身体の急所中の皮膚の下に強化カーボン糸を通す手術を行っているので、多少切っても撃たれても平気。培養臓器も人間まるまるストックしているので、致命傷でも大丈夫。これではむしろ、殺人ミッションがいつまでたっても成功しないきるるが哀れでしかない。

音持の無敵すぎるキャラクターもさることながら、お坊ちゃますぎて人間関係の距離感をわかっていない性質も、作品の面白さに拍車をかけている。

そもそもきるるに真っ向からアタックすればいいのだ。ところが周囲から人が集まってくる良家に生まれたばかりに、自分から接するという感覚がわかっていない。それでいてビジネス以外では極めて純粋。

きるるに殺されそうになるたびに「だー嬉しい嬉しい」「やっぱり僕達はお互いを支え合う最高の2人だね!」と大喜び。勘違い度合いのタガが外れているので、ある意味「来てもらうストーカー」と言ったところ。

恍惚として「生き延び続ける事が僕が君に伝える愛の形だ 何度でも受け取ってもらうよキル」と語る音持の姿は滑稽だが、何よりきるるが音持に恋されていることを知らないのが致命的。1巻では音持の愛も、殺人依頼の事実も一切きるるに伝わっていない。

殺人を経由して接触するハラハラした遠回り感は、恋を初めて経験する男女の落ち着かない感覚とシンクロして描かれている。普段は大人っぽい生き方をしている二人だが、中身は思春期の男女とほぼ変わらないほどで、じれったくてキュート。窒息死寸前なのに、背中に胸が当たることすら恥じらうようなピュアな音持の様子は、クレイジーながらも誠実で好感度が高い。

波乱しかない二人の恋愛の行く末は全く読めないが、音持が簡単に死なないのがわかっているからこそ、殺伐としているのに安心してニヤニヤ楽しめる作品だ。

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