2020.07.17
「ズボラウーマン×オカン系後輩」が繰り広げる、急転直下のハイテンションラブコメディ!『わたしのお嫁くん』柴なつみ【おすすめ漫画】
『わたしのお嫁くん』
異色の名作『てんちょう、ダメ、絶対』を生み出している柴なつみ先生の新作『わたしのお嫁くん』の第1巻が発売されました。
掲載誌を「Kiss」に移して、表紙からして実に普通というか、少女漫画に馴染んでいるので、正直最初柴なつみ先生の作品だって全然わからなかったですとも。
ズボラウーマン×オカン系後輩
物語の主人公は、社会人4年目にして仕事が順調な速見さん。そのキレイで可愛い見た目に、営業としての実力から、会社ではちょっとしたアイドル的ポジションで、男性社員たちから憧れのまなざしを向けられています。しかし完璧女子なのはあくまで会社でだけ。ひとたび家に帰ると、汚部屋で暮らすズボラモンスターへと変貌するのでした。
そんな彼女の隠された一面を、速見に憧れる新入社員・山本くんが、ある日ひょんなことから知ってしまいます。
圧倒的な家事スキルを持ち、汚れた部屋は許し難いという極端な性格の持ち主である彼は、速見さんの家をあっという間に片づけてしまうのでした。そんな彼の姿を見て、思わず「お嫁さんに欲しい……」と伝えてしまった速見さんですが……というストーリー。
後輩男子に付き合ってもないのに合鍵渡すセキュリティ
もはや定番となった、「めちゃめちゃ家事スキルの高い男子と同居する」ヤツです。
この手の作品で一番の難関となるのが、いかにして同居生活を始めさせるかなんですけれども、大体はやむを得ない理由=アクシデントをぶっこむわけですよ。もしくは逃げ恥的に、金銭の授受が発生する契約的なアレ。
でも本作の場合、そんな安い手は使いません。本人たちが意思を持って、話し合いながら、自然な形で同居へと至ります。まあ「自然な形」が結構違和感あるというか、不自然感に溢れてるんですけれど。
1話目で家事スキルを目の当たりにして「嫁に欲しい」発言が飛び出るわけですが、当然そこでは流されてしまいます。その後、ゴキブリが家に出て助けてもらい、2度目の訪問。お礼に残業を手伝ってあげたところ、そのお礼に家でご飯を作ってくれて、さらにそのお礼に(以下ループ)。
んで、1話目にして速見さん、山本くんに合鍵渡しちゃいます。
……いや、早くね?
付き合ってもいない後輩男子に合鍵をさっと渡しちゃうこの感じ。さらには結構早いタイミングで同居を提案したりするわけですよ。でも付き合ってないっていう。山本くんだけに対してなのかは不明なのですが、速見さん、人との距離感が変なところでバグってる感じがあって、見ていて危なっかしいんですよね。
そしてそれを平然と受け入れる山本くんの人間力よ。互いに全く意識せずにいられるなんて、なんて清い男女なんだ……とか思ってたら、実は山本くんはめちゃめちゃ意識してましたっていうオチ。
憧れの先輩とお近づきになれるチャンスですから、どんなポジションだって甘んじて受け入れるというわけ。しかし近くにいるからこそ、憧れているからこそ、簡単に手を出せない。
一緒に暮らしているからこそ、全く意識してもらえていないことがありありと分かるので、時折それに傷ついたり。家では主導権握っているようで、心の主導権は握られっぱなしであるところがニンマリポイントでございます。
柴なつみは柴なつみだった
同居しちゃったらもうこっちのもんで、もうあのイベントもこのイベントも、好き放題できるわけです。しかしながら、1巻終了時点で恋愛の匂いはするものの、同居ものとしては、ちょっとドキドキやトキメキは控えめな感はあります。なんせ速見さんがマジで山本くんのことなんとも思ってないですからね。
一方で、コメディ要素は満載で、結構な笑いどころが。この辺のトキメキと笑いのバランス感は『てんちょう~』とも通ずるものがあるように感じますね。
表紙や設定から、めちゃ普通の少女マンガに寄せてきたなと思ったのですが、全然尖ったままで安心しました。意図してボケてる部分もあると思うんですが、先述の速見さんの人との距離感バグってる的な話といい、普通に描こうとしてるところもなんとなく変というか、やっぱり柴なつみ先生は柴なつみ先生でした(最高です)。
ほっこりホームラブコメ装ってますけど、その実、急転直下のハイテンションラブコメディ。そのギャップをとくとご覧あれ。
©柴なつみ/講談社