2020.08.05
少女たちの動き一つ一つが美しすぎる正統派空手道ストーリー!『瞬きより迅く!!』ふなつかずき【おすすめ漫画】
『瞬きより迅く!!』
少女たちの動き一つ一つが美しすぎる正統派空手道物語
高校生の少年少女が、格闘技を始める理由はなんだろう。強くなりたいから。かっこいいから。勝ちたいものがあるから。
この作品のヒロインが決意したのは、自分が変わりたいからだった。
『瞬きより迅く!!』は正拳突きのごとくまっすぐな、王道青春熱血空手マンガの一巻目。
パッと本を開いた時に目に入る、空手の華麗な動きに心をわしづかみにされる作品だ。
小花井日葵(こはない・ひまり)は高校に入学したばかりの15歳。動きがトロくておっちょこちょいで、かなりドジ。中学生のころついたあだ名が「ぐーどん」。「愚鈍」だから、というひどい言われよう。
しかし高校に入って彼女は自分を変えようと決意していた。以前自分を助けてくれた人の回し蹴りに憧れ、彼女は空手部へ。そこにいたのは助けてくれた女生徒とは別人だったが、練習に参加するうちに夢中になっている自分に気づき、正式に入部することになる。
一巻時点では、空手部の部員の顔見せといった段階。中でも同じ新入生の伊澤空(いざわ・そら)がかなりいいキャラ立ちをしている。ツインテールにギザギザの歯、猫目で気が強く、空手に関しては一切手を抜かない真面目な子。5歳から空手一筋10年の努力家だ。
全然空手経験がない日葵の最初の壁になる彼女。空が8ポイント取る間に一発でも当てたら日葵の勝ち、というルールで突貫試合が行われる。
この試合のバランスが非常によい。空の努力の積み重ねの差は埋めることが全くできず、日葵は全く空に触れられない。一方先輩の元3日間の猛練習をはじめて自分を変革し始めた日葵の、必死な空手道の一歩目は、しっかり表現されている。
最初はゆるい考え方だった日葵を嫌っていた空も、一戦交えたことで心が変わる。これからの日葵の物語において、同期として絆を強めていく空気がビンビン伝わってくる、青春を感じさせる良キャラだ。
作者のふなつかずき先生は『華麗なる食卓』や『すんどめ!!ミルキーウェイ』などで、セクシャルな女性の身体を描くことを得意としていた漫画家だ。しかし今回はエロティシズムは完全封印。パンツすら見えない。正々堂々と女子高生の空手道を表現することに注力している。
空手の型のシーン一つ一つは非常に美しく、組手のワンカットは女性の身体のラインがしなやかで、どこをとっても構図がきれいだ。空手の一瞬の描写に、今までの作者の身体描写技術がフルに活かされている。
現時点ではまだはっきりとは表現されていないが、どうやら日葵は目が優れているらしい。見開きで描かれる写真のように美しい空手の一瞬は、もしかしたら日葵にしか見えない世界を読者に見せてくれているのかもしれない。
©ふなつかずき/集英社