2020.08.26
「ようこそ私の秘密基地へ」車内を改造した寝泊まりうんちく満載の、手作り車旅行マンガ!『渡り鳥とカタツムリ』高津マコト【おすすめ漫画】
『渡り鳥とカタツムリ』
大人の秘密基地でどこまでも旅に出かけよう
小さい頃、自分だけの秘密基地を持っていた人は多いと思う。それは押入れだったり、公園の一角だったり。今思えば秘密でもなんでもないんだけど、自分の場所、という特別感にワクワクしたいものだ。
『渡り鳥とカタツムリ』は大人のための秘密基地の物語。心理的には幼い頃の秘密基地と変わらないワクワク感いっぱい。でも大人だから、技術と知識を注ぎ込んで最高のものにしていく楽しみもいっぱいだ。
仕事に必死で心の余裕を失ってしまった望月雲平(もちづき・うんぺい)。ストレスが極限に達した時、彼はどこか遠くへ生きたいと願い、道の駅でエンジンを踏んだまま眠りこけてしまった。
危険な状態だった彼を見つけたのは、犬を連れた若い女性だった。彼女が雲平を招いたのは、大きめの車。中を開けるとそこは椅子もテーブルも、台所まである部屋のような空間。その女性、渚つぐみは言う。
「ようこそ私の秘密基地へ」
無事帰還してしばらく休暇を言い渡された雲平。つぐみの力強くのびのびとした車の旅に憧れ、彼女を師匠とあおぎ、実家の車で旅を始める。
車内を改造した寝泊まりうんちく満載の、手作り旅行マンガ。つぐみの車「アルビレオ号」はキャンピングカーほど大きくはないワンボックスカー。しかし湯沸かし洗浄に調理、ゆったりした睡眠空間、仕事用の画材、女の子らしいインテリアまで備えられている特別な空間だ。珈琲だって豆を挽いて入れて、じっくり時間をかけて味わう。
旅程もそこまでせかせかしていない。食べ物だって車で走っているのだから、コンビニ弁当でも十分なはずだ。しかしつぐみは道の駅で食材を買い、時間をかけて調理をする。
「秘密基地」が楽しいのは、自分の特別な居場所だからだけではない。その空間にいる瞬間は他の誰にも邪魔されない特別な時間になるからだ。つぐみと雲平の車旅はドラマチックなことが続くわけではない。しかし自分でどう工夫して車という秘密基地を快適にするか、行き先で知らないどんなものに出会うのかが楽しくて仕方がない。
「ここは俺の部屋なのに窓の外は知らない景色」という雲平のモノローグには、ワクワクするものがある。
つぐみによる車旅解説はかなり詳細で、安全で気をつける点やマナーまでしっかり具体的に書かれている。車内でしっかり睡眠を取る方法、狭い空間に荷物を効率的に収納する手段、安く便利に快適さを作るテクニック。
また車を止める場所の豆知識や、女性の一人旅の安全確保手法は、ちょっとした車中泊をする人にもかなり役立つだろう。
背が低くてパワフルなつぐみにも、何かしら思いはあるらしい。2巻以降はさらなる旅に加えて、絵を描くつぐみの仕事の様子や過去、そして彼女に思いを寄せる雲平の恋の行方がどう描かれるのか楽しみ。のんびりと続いてほしい作品だ。
©高津マコ/ワニブックス