2020.09.09
見た目はドSだけどダメダメな黒髪ロング美人×ドMなのに強制ドS化していく少女のドタバタ逆転百合コメディ!『ドM女子とがっかり女王様』狐ヶ崎【おすすめ漫画】
『ドM女子とがっかり女王様』
黒髪ロングの女王様っぽい美少女は、加虐心をそそるよわよわ女子でした。
「黒髪ロング」女子キャラクターは、ただの見た目のみならずすでに1つの性格的属性としても、マンガ表現の中で定着している。美人で秀才で気が強く、品行方正・文武両道・才色兼備……。
髪の手入れをしっかりしているであろうお嬢様だから、みたいな理由付けは一応あるのだろうけれども、ここは完全に記号化しているのであんまり深く考えても意味はないと思う。金髪ツインテールはツンデレ、みたいな感じ。だからこそ、あえて記号性から逸脱させることが、マンガとしての面白さにつながる。
この作品に出てくる久米川(くめがわ)は高身長に豊満な胸、憂いげで切れ長の目、そして腰まで伸びた長く美しい黒髪の持ち主の、近づきがたい美人な容姿。
さぞかし立派な人間なのだろうと思いきや、テストでは全て赤点、死ぬほど気が弱くネガティブで、人と会話ができない。きれいな顔で数学3点の答案を出してくる姿は、ギャップが凄まじい。
久米川の外見に惚れ込んで、さぞかしサディスティックな女王様が似合うだろうと考えていた中村は、彼女の本質を見て愕然。中村が久米川のダメさ加減を厳しく指摘すると、久米川はひどく弱そうにボロボロ泣いてしまう。ドMだったはずの中村の中に、ゾクゾクとサディスティックな感情が湧き上がる。
見た目ドSなダメ少女久米川と、ドMな自分に合うように久米川を誘導しているうちにドS化していく中村のドタバタコメディ。
久米川のそばにいるとイメージとの乖離の連続でストレスが蓄積しっぱなしの中村。しかし久米川を自分好みに誘導していくうちに、時々想像もつかない方面から天然ドSな発言が漏れて、心をわしづかみにされることも増えてくる。
同時に、攻め立てれば攻め立てるほど涙をこぼして弱々しくなる久米川を見て、自分の中のS心に気づくことも多々。気がつけば性癖を開拓されていたのは中村の側だったりする。それどころか、他の人の前で久米川が怯えて泣きそうになっているのを見ると、モヤモヤと苛立つようにすらなってくる。
「お前絶対 わたし以外の前で泣くなよ!」
久米川は極めて純粋に、中村が話しかけてくれるのが嬉しくて仕方ない。最初はぼっちだからだったが、どんなに自分がヘタレでも相手してくれることもあって貴重な友達だと受け止めていた。彼女は散々中村の性癖に振り回されているのを理解しているはずなのに、気がつけば一緒にいたくて仕方なくなってくる。
変態的コメディの奥底に流れているのは、紛れもなく繊細な百合の魂だ。中村はMの矜持として究極の女王様を求めている素振りはあるが、おそらく久米川じゃなきゃもうだめなんだろう。久米川はぼっちだから唯一話しかけてくる中村と仲良くなったが、今は中村のことを親友だと思っているのだろう。
SMのバランスはいびつだけれども、すでにオンリーワン同士になっている2人。一巻後半以降で少し双方への意識が芽生えてきているようなので、今後がとても楽しみだ。
©狐ヶ崎/KADOKAWA