2020.09.30
どれだけばらまいてもお金が減らない総資産5000兆円のお嬢様が、知らぬ間に事件を次々解決していく痛快コメディ!『悪徳令嬢5000兆円無双』新谷信貴【おすすめ漫画】
『悪徳令嬢5000兆円無双』
どれだけばらまいてもお金が減らないお嬢様が、事件を知らぬ間に次々解決
「5000兆円欲しい!」という画像がTwitterでネットミーム化したのはつい最近の話。あちこちで気軽に言われるものの、いかんせんこの金額大きすぎてピンとこない。
天文学的と言ってもいいお金を持ったら本当に何でも買えるのだろうか、友達も買えるだろうか、いや無理でしょ、という即落ち感が楽しいのがこの作品。毎話ごとに残りの総資産がカウントされているのだが、お金を湯水どころじゃなく滝のように使っても全然減らない。
闇商人の孫、犬飼千冬(いぬかい・ちふゆ)は富豪の少女。執事の山田ゲパルトと共に札束の山の中で暮らしている(現金主義っぽい)。総資産は5000兆円。
彼女はお金で何でも欲しい物を買う。ただ、2人で暮らす日々にすっかり退屈していた。
「これだけ金があっても何をしていいかわからないわ」。
お金持ちっぽいセリフベストテンに入るであろう発言だ。
彼女が欲しいのは、友達。ぼっちな彼女は5000兆円で友達を作ろうと試みる。SNSでフォロワーを探す。ナイトプールに行くための方法を考える。夢の国に行く。
ただ立ち回りが全くわかっていない。JKの姿になってファミレスで青春をすごすふりをする彼女。近くの席のJKが金欠で好きなものを注文できない様子を見て「…私が払ってあげてもいいかもね…!」と赤面。
いわゆる「お代は既にいただいています」作戦狙いだが、彼女の視野はでかすぎた。日本全国のチェーン店のこの日の分の売上約10億円を払い、今日のお客さん全員が無料になる施策を設けた。
さぞかし人気者になるだろうと思いきや、突然奢ってきた知らないヤバいやつに連絡などするわけもなく、結局増えたフォロワー0人。ただし千冬の知らないところで、日本中のSNSにはファミレスを訪れた人々の笑顔があふれた。
友達ができないへっぽこコメディ自体はずっと続いているが、徐々にばらまくお金が事件を呼び、ちょっとズレつつもまっすぐな彼女の行動が問題を解決していく痛快ミステリーに転じている。
2巻では転売ヤー騒動、バーチャルユーチューバー引退などに巻き込まれた千冬が私利私欲からお金をドバドバ使い込み、その時は思いもしなかった裏の大事件に遭遇、決着を付けていく、と怒涛のように物語が展開していく。
めちゃくちゃな数字が飛び交う様と、千冬の子供っぽいケンカっぱやさが爽快。いろんなものを買うことで知らないところで人を幸せにするあたり、自覚のないヒーローものとも読める。彼女の友達のできなさをほんのちょっとだけフォローしているあたりの優しさもあったかい、豪快ながらも心地よい作品だ。
©新谷信貴/集英社