2020.10.03
島流しにあった孤島の洞窟を採掘し、開拓・冒険していくファンタジーアドベンチャー!『洞窟王からはじめる楽園ライフ 〜万能の採掘スキルで最強に!?〜』出店宇生, 苗原一, 匈歌ハトリ【おすすめ漫画】
『洞窟王からはじめる楽園ライフ 〜万能の採掘スキルで最強に!?〜』
本日のピックアップは、コミックウォーカーおよびニコニコ静画で配信中のWebマンガ『洞窟王からはじめる楽園ライフ 〜万能の採掘スキルで最強に!?〜』。Web小説投稿サイト「小説家になろう」から商業書籍化した小説にもとづくコミカライズ作品だ。
──その世界では、人間が誰しも何らかの能力(スキル)をもたらす“紋章”をもって生まれてくるという。
身体能力が引き上げられる者、剣技に優れる者、魔術に秀でる者など紋章の種類はさまざま。とくに身分が高い者のスキルは華麗で強力なものがほとんどだ。
が、ここに例外がいた。
サンファレス王国の第17王子ヒール。彼は一族のなかで冷遇を受けている。その身に宿す“洞窟王”という紋章のせいだ。いったいどんなスキルなのか本人にも分からず、いつまでも効果を発しないため役立たずとバカにされてきたのである。
そして成人の15歳を迎えたヒールに、実の父である国王は情けのない命令をくだす。いわく、ヒール王子は神託によって指定された土地の統治をおこなうべし。
その地とは、シェオール岩礁。荒れ狂う波に囲まれた絶海の孤島である。事実上の島流しだ。ふつうの船はもちろん海賊さえも寄り付かない過酷な場所へ、ボートひとつで追放される惨めさ……。
島にたどりついたヒールは雨風をしのぐため、目についた洞窟へ潜り込む。なんとかして生き延びなくては。考え込む彼の目に入るのは、洞窟内に散乱する人や動物の骨。埋めてやろう、と何気なくピックルを持ったその瞬間。それが、彼の大きな転機となった。
ヒールの紋章は“洞窟王”。そう、洞窟に関わる作業に特化したスキルだったのだ!
小さなピッケルをふるっただけで発破でもかけたかのように硬い岩壁がどんどん崩れ、たった一人の手でみるみるうちに大きな採掘トンネルができていく。
手に入った鉱石は自動的に目に見えない収納空間に吸収されて目録化され、掘った後の処理も簡単楽ちん。しかも掘り出した石のなかには金銀銅はおろか使用者の魔力を増やすものや、寿命を延ばすことができるアイテムまであったり……地獄に思えた島が一転、宝の山となるのだった。
土地、財宝、王の称号、そして力。さらに運命はヒールのもとへ、“民”までも連れてくることになる。
それは故郷を異種族に焼き滅ぼされ、傷つきながら放浪をしていたゴブリンたちだ。見れば、あどけないお姫さまのゴブリンが死を間近にしているではないか。
人間とは敵対する種族だが、無人島で孤独に朽ちるかと恐れていたヒールには、せっかくあらわれた他者を粗末にすることなどできない。治療も食料もおしみなく施した結果、恩義を感じたゴブリンたちは配下という形で島暮らしの仲間入りをしてくれることになった。
さらに人数を増やしたゴブリンたちと協力しながら、ヒールは超絶的な開拓力を活かして洞窟を拡げ、地下に住居や設備をこしらえる。荒れ果てた土地をじょじょに快適に、そして文化的に変えていく。ときには魔物と遭遇してまたテイムし、またときには謎の遺跡を調べ……。
洞窟王ヒールの波乱万丈の国作りが、いま幕を開ける!
という具合に、ひとつの島を開拓・冒険する物語を、いわゆるクラフト系ゲームの興趣を注ぎ込む形で仕立てた作品だ。
コミカライズは作画担当が『アインシュタイン1904』の出店宇生先生だけあって、勢いのいい画面作りが状況をうまく盛り立てて読みごたえ抜群。
とくに、島が荒波の海に囲まれているロケーションの描きこみが印象的だ。第4話、ヒールが海上に氷の道を作り出して多数のゴブリンたちを沈みゆく船から救助するシーンのド迫力にぜひ注目してほしい。絵画的にキマった構図レベルから素晴らしいショットが堪能できる。
この原作小説にこうした画風のマンガ家さんがつくのは非常に正しいマッチングで、たいへんに恵まれたコミカライズの例を見ることができる。そういう意味でも快作といえよう。
なお本作はコミック第1巻が去る9月23日に発売されている。巻末にはヒールたちが開拓している地下洞窟の内部図解が載っており、彼らの生活を想像してワクワクすることができる。カバー下にはおまけマンガや「魔物図鑑」といった余禄もあり、本編の楽しみを厚くするサービスにあふれているのでWeb既読者でも単行本で改めて読むと新たな発見があることだろう。
©出店宇生, 苗原一, 匈歌ハトリ/KADOKAWA