2020.11.23
「神」と呼ばれるほどのクオリティの作品を生み出し続ける同人作家を取り巻く、創作でありながらどこか生々しい同人女たちの悲喜こもごも……!『私のジャンルに「神」がいます』真田 つづる【おすすめ漫画】
『私のジャンルに「神」がいます』
これはBL──商業BLではない、いわゆる二次創作のお話で、さらに二次創作そのものではなく二次創作をする側の人間模様に焦点を当てた作品となっております。twitterでバズっていたのでご存じの方も多いかもしれません。
二次創作というのは、小説や漫画、アニメやゲームなどに登場するキャラクターや設定を使って書かれる作品のことで、原作ではありえない作中のキャラたちの人間関係やお話を楽しむことができます。いわゆるファンアートにのようなものなのですが、二次創作の作者はプロからアマチュアまで実に幅広く、生み出される作品数も膨大でまさに玉石混合。
最近ではweb上で簡単に作品を公開できる場所も増え、その大半は無料で閲覧できるため、書き手以上に読み手も増えているであろう、かなり規模の大きいエンタメとなっています。
この二次創作を本にしたものは、版元を通して出版されて本屋さんに並ぶ商業誌と区別して「同人誌」と呼ばれます。二次創作をすることは「同人活動」、二次創作をする人のことは「同人作家」です。
二次創作は内容もギャグからエロまで実に幅広く、好みの作者・作品に出会うまでには膨大な時間と労力がかかるのが当然の世界でもあります。ジャンルの流行り廃りはかなり激しく、半年もすれば勢力図がガラッと変わっているのは日常茶飯事といえるでしょう。
そんな特殊な世界で「神」と呼ばれるほどのクオリティの作品を生み出し続け、熱狂的なファンを量産するのがこの作品のメインキャラである「綾城」です。彼女を取り巻く同人女たちの悲喜こもごも……。これを冷静に読める現役オタクは少ないのではないでしょうか。
古傷をかきむしられたり、うっかりさかむけの皮を引っ掻いてしまったような気持ちといいましょうか、身に覚えがありすぎて目をそらしつつも気になって読んでしまう感じといいますか、当事者でありながら傍観者でいたいむず痒い恥ずかしいような感覚を拭い去ることが難しい作品なのです。
こんなにレビューしにくい本がかつてあったでしょうか……。
天才的な文章力で二次創作字書き界で「神」と呼ばれる綾城と、彼女に嫉妬し、焦がれ、憧れる同人界隈の人々。「神」の友人にすり寄ったり怒りを覚える人々。とにかく、創作でありながらどこか生々しい、同人界隈に渦巻くレインボー感情の渦に飲み込まれないように読み進めるのに必死になります。
好きだけど妬ましい、好きすぎてもう無理という身に覚えのありすぎる感情が、1冊の中でバンバン飛び交っております。実名を出すと予想外のところから燃え上がりそうなので控えますが、かつて死ぬほどはまったジャンルや、そのジャンルで同人活動をしていた神同人作家を何人も思い出し、大変懐かしい気持ちになりました。
「天才字書き」、つまり小説に焦点が当たっているので意図的に漫画の二次創作は横に置かれているのですが、漫画でもそんなに事情は変わらない気がします。とにかく同人に関わる人々の心をざわつかせるのに十分なパワーを持っている1冊なので、気になった方はちょっとチラ見してみると楽しめるのではないかなと思います。
個人的には現役腐女子として心が痛くて昇天しそうになりました!
©真田つづる/KADOKAWA