2020.08.21
【インタビュー】『スキップとローファー』高松美咲「王道な少女漫画設定を入り口に、心の機微を軽やかに描きたい」
石川県・能登半島の端っこ。過疎地域とされる場所から、東京の進学校へ主席入学した主人公・岩倉美津未(いわくら・みつみ)。
ゆくゆくは東大に進み官僚になり、過疎対策に貢献するという将来設計に向けて上京し、学年屈指のイケメン、東京生まれ東京育ちの志摩くんとなんだかいい感じで順風満帆な高校生活! ……と思いきや……?
入学初日からトラブルを引き起こす(でも憎めない!)、無自覚天然な美津未ちゃん。ピュアで和やかな彼女と関わるうちに、周りのクラスメイトたちとの関係性が構築され、変化していく様子にほんわかあったかい気持ちになったり、学生時代の自分を思い出すようで胸がきゅっと締め付けられたりする青春コメディ。それが『スキップとローファー』です。
「月刊アフタヌーン」で連載中の本作ですが、2020年8月21日に単行本4巻が発売となりました。これを記念して、コミスペ!では作者の高松美咲先生に直々インタビュー!
『スキップとローファー』がどのようにして生まれたのか、何をテーマに据えているのか等々、たっぷりお伺いしました。
誰が誰に救われたり、気づかされたり、成長のきっかけをもらったりするかわからない学生生活
──前作『カナリアたちの舟』はSF寄りな作品でしたが、『スキップとローファー』は学生生活コメディとなっています。まずは、どのようにしてこの作品が生まれたのかを教えてください。
高松美咲先生(以下、高松):青年誌は宇宙飛行士や将棋の棋士みたいな「専門職×人間ドラマ」の漫画がいいと思って、新しい職業や趣味に対してどんどん取材をしないといけないっていう先入観があったんです。
けれど私にはこれといった趣味がなく、興味の対象は主に人間関係や人の心のふれあい、動きに関してでした。
何をしたい漫画なのか見えない→ボツを繰り返してる中で、担当さんと「少女漫画はどうだろう」という話になったんです。恋愛には明確なゴールがないけれど、その経過も含めての物語じゃないですか。
そこで、思いっきり少女漫画っぽく振り切っちゃってももいいんじゃないかって。そしたらすぐに連載が決まりました。
──『スキップとローファー』は、田舎から上京してきた子がシティボーイなイケメンと出会って……という少女漫画的な要素が前面に出てくるかと思いきや、男女関係なく個々人が心を通わせる部分を丁寧にフィーチャーしている印象があります。先生の思う本作の見どころはどこでしょうか?
高松:さっき「思いっきり少女漫画っぽく」と言ったところなんですけど、実際は「少女漫画の皮をかぶろう」って話なんです。
人間関係を掘り下げるのであれば、どうしても暗いテーマも描かざるをえませんし、私自身はその暗さも好きです。でも、好きに描こうとすると暗くなりすぎるから、あえてありふれた設定で作品全体をくるんでみました。
あらすじをたどれば、田舎っぺが上京してきて、ださいのになぜかイケメンに気に入られて、何となく友達もどんどん増えてみたいな……すごくベタベタの少女漫画な設定の中で敢えて恋愛に主軸を置かず、人間関係を軽いタッチで描きたいんです。
わかりやすい土台を作ったうえで、もともとやりたかった微妙な人間関係を描こうと。
人によって、日常の中で重きを置いてることはそれぞれ違うし、コンプレックスもそれぞれ持っている。同世代の人たちがぎゅっと詰まっている学校生活で、誰が誰に影響を受けるのかを描きたかったんです。
仲良くなる子が清廉潔白かっていうと必ずしもそうではなく、ちょっと性格が悪いぐらいのほうが気が合ったりするじゃないですか。誰が誰に救われたり、気づかされたり、成長のきっかけをもらったりするかわからない学生生活を丁寧に描きたいと思っています。
──主人公の美津未ちゃんは能登半島出身ですが、先生自身は富山県出身と拝見しました。舞台設定についても教えてください。
高松:私は高校まで富山で過ごし、大学は金沢だったのですが、富山は田舎と呼ぶにはイオンも電車もあるし割と栄えていたんです。
母方の田舎が能登半島で、よく夏休みや正月に帰省していて思い出があったのと、地元すぎると自分の主観が入りすぎるので、富山ではなく能登半島をモデルにしました。
──モデルが出てきたりと「地方出身者が考える東京らしさ」も詰まってますもんね。
高松:垢抜けていない主人公のライバルがモデルという設定も少女漫画っぽいですよね。
──美津未ちゃんが夏に帰省する回がとてもリアルだなあと思いましたが、実際に先生もあんな夏休みを過ごされていましたか?
高松:そうですね、夏の帰省はすごく楽しみにしていて、そのイメージは入れました。ごはん屋さんはお盆だけ混んでてんやわんやしているんですけど、毎年帰るたびにおもちゃ屋やレンタルビデオ屋がなくなったりと、過疎は肌で感じていて……。
私の母方の実家も、祖父母がいなくなると誰も住まなくなってしまうんです。あの風景を自分の記憶にも残したいという意味で、あの回は特に気持ちを込めて描きました。
──『スキップとローファー』いうタイトルには、どういう意味を込められているのでしょうか?
高松:特に意味はなくて……、強いて言えば響きですかね(笑)。「美津未ちゃんは○○」みたいなタイトルが流行っていますけど、それだと主人公の印象が強くなりすぎてしまう。この作品は脇役の価値観を否定しないことを大切なテーマにしている漫画なので、それはなしにしようと思っていました。
自分を大きく見せようとするけど失敗することもある、思春期の学生たちを描く上で、軽やかな気持ちになればいいなと思い「スキップ」という言葉と、学生のアイコンである「ローファー」をつなげて『スキップとローファー』になりました。
──コミックスの装丁も軽やかで華やかです。
高松:それこそアフタヌーンというより少女漫画寄りのデザインで、作中の季節に合わせて衣替えしています。書店で平置きしてもらったときに映えるようにしようという狙いもあります(笑)。
最新刊はちょうど文化祭編がすぽっと入っているので、表紙も秋をイメージして背景にいちょうを描きました。文字色が紫色なのはデザイナーさん曰く、焼き芋のイメージとのことです。
ファッションや髪型に見る、思春期の情熱
──美津未の東京の居候先である、叔母(トランスジェンダー)でスタイリストのナオちゃんが見立てる美津未ちゃんのファッションがいつも可愛いですよね。
高松:ありがとうございます! 今の高校生って何を着てるんだろうと思って、「Popteen」や「Seventeen」を購読して勉強しています。自分が高校生のときは一回も読んだことなかったのに(笑)。
私、ギャルの子たちって「ギャルっぽい服を才能で選んでいる」と勝手に思っていたんですけど、みんなちゃんとファッション雑誌を読んで研究してたんだなって感じます。少ないお小遣いの中からちゃんと雑誌を買ってたんだなって感動して、ミカちゃんのキャラクターにも反映させました。
あと、ギャルの子たちの髪型も、うしろを編み込むとかどうやってるんだろうって感じで思ってたんですが、雑誌を見たら、職人だなと思いました。クラスで友達の髪の毛で練習とかしてたんだろうなって。
──みんなも髪型かわいくしてましたよね、クラスマッチで。
高松:都会の子に学生時代の思い出を聞いたとき、イベントごとに友達と示し合わせて、早めに学校に来ておそろいの髪型にしていたと言っていて。
私の学校は校則が厳しくてそういうことができなかったので、うらやましい気持ちを込めて描きました。
──作中で能登のキャラクターたちが持っている東京へのイメージと似ているんでしょうか。東京ってあれもこれも派手ですごいみたいな。
高松:たぶん、変な偏見がお互いにありますよね(笑)。富山は校則が厳しい学校が多かったですけど、能登の学校は1学年に10人くらいしかいないので、逆に緩かったと思います。先生の目が届くから悪いこともしづらいし、おおらかなイメージはありますね。
──美津未ちゃんが能登に帰省したとき、東京で方言を直さなかったのかという話で、「そういうのをからかわない友達ができた」と言うシーンにぐっときました。みんな擦れてないというか、ピュアですよね。
高松:私も最初、東京の学生さんってもっとドライなのかなって思ってんですけど、実際に話を聞かせてもらうとびっくりするくらいみんないい子たちで!
漫画の取材で東京の進学校の文化祭にもお邪魔したんですけど、文化祭実行委員会とかも先生にやらされるのではなく、やる気のある人が自然と集まると聞いてカルチャーショックを受けました。
演劇の舞台をやるにしろ、設計図を作って火事の心配がないか事前にチェックしたり、大道具に使う木材もどうすれば一番ロスを少なくできるかを計算したりしていて、社会人みたいなしっかりした子ばかりでしたね。
©高松美咲/講談社
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