2020.12.16

「ショーのポールダンス」と「ポールスポーツ」の、ベクトルの異なる美しさを描いたヒューマンドラマ!『シルバーポールフラワーズ』如意自在【おすすめ漫画】

『シルバーポールフラワーズ』

ショーのポールダンスとポールスポーツ、ベクトルの異なる美しさ

エンターテインメントを追求するショービジネスと、ストイックに競い合うスポーツは考え方のベクトルが根本的に違うもの。ただここに「性」が絡んでくると一気に話は難しくなる。

この作品はポールダンスという、聞く人によってイメージががらっと異なるものを題材にしたマンガだ。おそらく今の日本でポールダンスというと、過半数の人はちょっと官能的な、あるいはいかがわしい演目を想像するかもしれない。実際クラブやストリップ劇場で、露出度多めに女性が演じている事実は世界中にある。

普段和菓子屋で働くは、商店街で有名なおしとやかな看板娘。夜はこっそりと成人向けのショーハウスに通い、露出度の高い衣装を身に着けポールダンスを披露していた。その技術力は非常に高く評判もいいい。彼女の艶めかしい踊りの美麗さは強い信念に基づいたものだった。

「妖艶に官能的に 踊りで人を魅了する それがポールダンス」
「私の好きなポールダンスは…この世で一番美しいのだから」

ある日花凛(かりん)という女性が街にやってきた。彼女はスポーツポールダンサー

芸術性を持った競技としての「ポールスポーツ」を愛する女性で、日々研鑽を積んでいる。だから華のような性を見せる場所での踊りを、プライドがない、と叱責する。

「アンタたちのせいでアタシまで白い目で見られる 低俗で下品で」
「アタシの好きなポールダンスは…この世で一番美しいのだから」

性的魅力を含むエンターテインメントと、技術を極めていくスポーツは、同じダンスでも質が全く異なる。人に見せることに特化した華のダンスは、スポーツのような完璧さよりも人を魅了する表現であることが重要だ。彼女はそこにプライドを持っているからこそ観客を盛り上げられる。

だから性的側面だけ見て下劣だと言う花凛の言葉に、激しい違和感を覚えてしまう。

ただ問題は華の中にもある。自身がショー劇場で露出度高く踊っているという話を、家族にできていない。ステージに登るときも衣装で薄いベールをまとって顔を見えづらくしている。無意識のうちに自身のショーに後ろめたさを覚えている。

このあたりが作品が持つ「美の価値観」の問題に大きく関わってくる。

ストリップやポールダンスが成人向けの場で演じられる際、性的な魅力としての要素は絶対に欠かせない。そこに嫌悪感を抱く人はどうしても出てくるだろう。しかし技と美を極めていく時にその美しさの欠かせないひとつが性だとしたら、何も恥じることはないはず。ここで引っかかってしまう繊細な心理が、丁寧に、情熱的にマンガ内で描かれている。

華と花凛の「エンタメ」「スポーツ」の考え方はそれぞれストイックすぎるので、現時点では全く噛み合わない。しかしポールダンスはどちらであろうとも美しさを表現するものだ。ふたりがライバルとしてぶつかりあった時、さらに上のステージでポールダンスに向き合えるようになるはず。

そのむき出しの、双方の「美への執着」のぶつかりあいが1巻の面白さ。ラストで華がとった行動により、ポールダンスの持つ「性」がどう一般社会の人に見られるのかとハラハラする。

ストリップなどのショービジネスが立派な技術であることは、現代社会では多くの人に認知されてきていると思う。しかしショービジネスがどんどん衰退し、踊り子側が周囲にカミングアウトできないのもまた現実。

この「性」と「美」、「エンタメ」と「競技性」の調和がどこまで描かれるか、非常に楽しみだ。

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たまごまご

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