2020.12.23

心を読める少女と元ヤンのいかつい青年が織りなす、優しく温もりに満ちたヒューマンドラマ!『カナカナ』西森博之【おすすめ漫画】

『カナカナ』

心を読める少女と元ヤンのいかつい青年、人間案外捨てたもんじゃない

逆境に負けず一生懸命に生きようと戦う女の子は、かわいいしかっこいい。大きくて強くて純朴で正直で心のおおらかな男は、かっこいいしかわいい。

ふたつの「かっこいい」と「かわいい」が組み合わされば、そこに生まれるの魅力的な人間関係。心から信じることのできる人がいる幸福を見せてくれる作品がこの『カナカナ』だ。

主人公の少女・佳奈花(かなか)の境遇は悲惨なものだった。心を読む能力を持っていた彼女は「その能力は人に忌み嫌われる」「誰にも言ってはいけない」と言われ、孤独だった。

周囲には彼女を変態に売り飛ばそうとか、賭博のために利用しようとかする悪い大人もいる。彼女を貶めるために動物虐待の冤罪をかぶせられたこともある。

心が読めることは、子供の心を歪ませた。まわりにいる大人は下心だらけ。彼女のことを助けようとしてくれた女性も、実際は自分の利益しか考えていない。耳をふさいでも飛び込んでくる人間の汚い言葉の数々に佳奈花の心はボロボロ。

しかし彼女が出会った正直(まさなお)は違った。元ヤンで顔に傷があるいかつい容姿は誰もがおっかながる。しかし彼の心の中は全く裏表がなくまっすぐだ。

佳奈花を見てかわいそうだと思い、肉まんとオレンジジュースを買ってくる彼は、肉まんとオレンジジュースのことしか考えていない。いろいろな大人が近寄ってくる中、佳奈花は正直に付いていくことを選んだ。

純粋すぎてダメなところが多い正直の面倒を見たいと考える佳奈花と、佳奈花のことを笑顔にしたいとシンプルに考える正直の関係は、周囲の大人たちの歪みとの対比でものすごくクリーンだ。極度にひどい目にあいがちだった佳奈花の、心のこじれが次々と救われていく様はカタルシス満載。

正直の心の大きさは見どころの一つだ。見た目がヤクザにしか見えない彼が、怪我をしそうになった女の子を咄嗟に助けた時、その母親が「この変態!!」「ヤクザだからってなんでも許されると思ってんじゃないわよ!!」と怒鳴り散らすシーンがある。

もちろん冤罪なのだが、正直は佳奈花の制止を止め、ただ笑顔で会釈して帰っていく。彼の頼もしさ、大きさがひときわ目立つ。

正直もまた、自分の見た目で本質を理解してもらえなかった悲しみを過去に抱えていた人間。今は絶対暴力は振るわない。怒らない。境遇としては佳奈花と似た者同士なのかもしれない。ふたりが前向きに、朴訥に頑張ろうとしているから、読んでいる側も深読みせず、ふたりの頑張りをそのままに受け止められる。

絶対にうまくいくだろうという確信すら持てる、とても幸福な作品に仕上げられている。

何かあってもことを荒立てず受け止め、頭を下げることを辞さず、楽しいことをポジティブに笑顔で見つめる。それは拳で相手を殴り飛ばすよりはるかに大変。誤解されても大きな器で生きようとする大変さ、分かってくれる人は必ずいるはず……なんて理解していても人間そう簡単には割り切って生きられない。

だからこそ、佳奈花と一緒の目線で正直の心の強さ、かっこよさに惚れてしまうこと間違いなしの作品だ。

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