2021.01.27

ぶっちゃけお金をかけまくる葬式って本当に必要なの? と悩む葬儀社の新米社員の姿を描いたヒューマンドラマ!『それでもしますか、お葬式?』三奈仁胡, 岡井ハルコ【おすすめ漫画】

『それでもしますか、お葬式?』

ぶっちゃけお金をかけまくる葬式って本当に必要なの? と葬儀屋は悩む

人生の特大イベントといえば、結婚式、出産、葬式。その中でも悲しさに苦しんでいるのに特大の額がかかる葬式は、感情面でも金銭面でも人間関係面でもかなり面倒くさく、トラブルが起きがちだ。結婚式は簡易で済ませたり、しなかったりする人もかなり増えているが、葬式はそうもいかない。

漫画『それでもしますか、お葬式?』によると、お経ナシの火葬だけで42万。引取拒否をすると自治体の費用で火葬されて無縁仏処理扱い。大変だしお葬式って必要なくない? といくら感じても、完全に無しにしづらくて本当に厄介だ。

この作品に出てくる新米営業社員の向井朝子(むかい・あさこ)も、葬式に関わりながらもどう向き合えばいいか悩んでいる人物の一人だ。一緒に働いている一級葬祭ディレクターの水野圭一(みずの・けいいち)は、葬式でお金をもぎ取るために考えを働かせる策士で、そこに死者や遺族への情はない。

淡々と良心の呵責を捨てて仕事する葬祭屋の世界を、彼は「コッチ側」という。朝子はまだ遺族の気持ちに寄り添おうとしているので「ソッチ側」だとも言う。

朝子の葛藤を通じて、この作品は人間の死と環境を描いていく。最初に出てくる葬式の仕事は、孤独死の女性。音信不通だったにも関わらず妹が呼び出され、突然の火葬と部屋の清掃代あわせて72万。プラス葬式となると金額はガンと跳ね上がる。お葬式をやりたくても、出来ない。

そんな彼女を見て、朝子は自分で放置3日で死臭漂う部屋の掃除を行い、できるだけ安く葬式を行おうとする。

彼女が葬式について悩むのは、かつて父親を送り出すことができずずっと心を囚われてしまっていたからだ。結婚式などは「後から出来る」という希望があるものの、葬式はタイミングを失うと二度と出来ない。残された側はドライに割り切れるかと言うと、永遠の別れであることを考えるとまず無理だろう。

朝子が行った孤独死女性の葬式によって、妹はもちろん女性の知人たちもたくさん集まった。かつての女性の生前について、みんなが語り合い、涙を分かち合った。

葬式は死者を悼み悲しい空気に包まれるもの。と同時に遺された遺族の未来を解放するための儀式でもある。価格の問題などを考慮して葬式の存在に疑問を抱く朝子に対して、水野の存在が非常に面白い。

序盤ではお金を遺族から搾り取る笑顔の悪魔のようにすら見えるが、次第に情に流されず場を準備できるプロフェッショナルであることがわかってくる。水野が朝子を正社員にせず突き放し続けるのは、意地悪ではなくちゃんと意味がある。

朝子は「コッチ側」で情を捨てたプロになれるのか、それとも「ソッチ側」で相手に寄り添い奔走し続けるのか。葬式はなぜ行われるのか問題とあわせて、今後多数出てくるであろう死に向き合う人々の人情とリアルの数々を比較して見てみたくなる。

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