2021.03.03
女性の悩める心の穴を埋めてくれる、レズビアン風俗でのお仕事を中心に描くオムニバスストーリー。『愛されてもいいんだよ』天野しゅにんた【おすすめ漫画】
『愛されてもいいんだよ』
女性の悩める心の穴を埋めてくれる、レズビアン風俗でのお仕事
女性専用レズビアン風俗の存在は、エッセイマンガ『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』が有名になったことで聞いたことがある人は多いと思う。
女性が相手をする、女性向けの風俗店。もちろん性行為はセットのひとつにあるものの、必ずしもセクシャリティがレズビアンの人だけのための店ではないようだ。
『愛されてもいいんだよ』はレズビアン風俗に務めることになった女性を中心に描くオムニバスストーリー。お店で働く人達も多種多様だし、お客さんも千差万別。人々の成長の物語からほっと和む話、ドロドロした愛憎劇まで人間模様が描かれる。
優柔不断な社会人の木村倫(きむら・りん)。彼女が人生に行き詰まって落ち込んでいた時声をかけてきたのが、サバサバ元気な美人の女の子・諒(りょう)。
彼女が勤めているのは「女性専用レズビアン風俗店 ゆりとぴあ」。さすがにこれには倫も仰天するものの、人生を変えるきっかけが見つからなかった彼女は2万円払って彼女と共にホテルに向かう。ちなみに倫の性癖は、明言されていないが発言を見た限り一応ヘテロだが、特にこだわりはない様子。
ラブホに入って、シャワーを浴びて、ベッドの上でおしゃベリをしながら手を握り、ハグし、気がつけば倫はコンプレックスも恥ずかしいことも全て、諒に何もかもを受け止めてもらっていた。
自己肯定感を初めて感じることができた倫。彼女は会社のセクハラじみた対応に「やです!」とはっきり言い返すことができるようになり、スパッと仕事を辞めた。彼女は自分の意志で、自分を変えてくれたレズビアン風俗の店で働くことを決意する。
風俗話なので当然セックスシーンは頻発する。しかしこのマンガで重視されているのは行為そのものより、交流の中で心に空いた穴を埋め、満たされていく過程だ。デートで手をつないでキュンキュンするのも、他愛のない会話でときめくのも、セックスまで含めた性行為の流れのひとつ。
たとえばある教員のお客は「ダメな相手に自分が主導で教える」ことで興奮する性癖の持ち主だった。ここで求められるのは倫のアドバイスではなく、倫が彼女を隠したその思いを見つけ、肯定し、プレイの中でどうその欲求を擬似的に満足させるかだ。
レズビアン風俗に来るのは必ずしも女性の身体を好む女性ばかりではない。全くプレイができないくらいのヘテロの恥ずかしがり屋もいれば、夫に対しての不感症に悩み続ける主婦もいる。若き日に自身の恋愛経験が実らなかった心の穴を埋めるために、二人の嬢に女子高生服を着せてプレイを鑑賞するおばさまもいる。
「エッチエッチしたエッチだけが エッチじゃないんじゃないですか」
倫は源氏名を「ここあ」としてこの仕事を続けている。一緒にいて、気持ちいいことが出来た。そこにうまれた「本当」で相手を満たしていくのが、プロのレズビアン風俗嬢。
レポものではなく、心と身体の交流から生まれる人間たちの自立を描いた物語だ。倫と出会って、この先人生が変わる人は多分多いのだろう。彼女が自分の源氏名を「ここあ」にしたのも、お客さんを癒せるあったかい人になりたい、という指針から(みんながみんなそうやって働いているわけではないのも、このマンガのポイント)。
「安らぎを与えるプロの物語」として是非読んでほしい作品だ。
©天野しゅにんた/講談社