2021.03.14
「野球」が戦争代わりの世界で、超一流の野球少年が弱小国家チームを率いて活躍する、異色の異世界転移作品!『野球で戦争する異世界で超高校級エースが弱小国家を救うようです。』西田拓矢,海空りく【おすすめ漫画】
『野球で戦争する異世界で超高校級エースが弱小国家を救うようです。』
本日のピックアップは、講談社がニコニコ静画で展開するWebマンガ媒体「水曜日のシリウス」で連載中の異色すぎる異世界転移漫画。その名も『野球で戦争する異世界で超高校級エースが弱小国家を救うようです。』である。
主人公・常夏太一(とこなつたいち)は高校野球ファンの憧れを一身に受けて大活躍した超一流の野球少年。高速ストレートと多彩な変化球を武器に甲子園を熱狂させた彼は、近い将来プロとしてマウンドに立つ姿をみなに期待されていた。
ところが。甲子園からの帰路、太一は不運にも交通事故で命を落としてしまう。全国の人々は野球界の大いなる損失を嘆き悲しみ……いや、人だけではない。野球のことが大好きな、とある偉い神さまもまた太一の野球人生がここで終わることを望まなかった。神様は太一にこう告げる。
「常夏クンには異世界に行って『徳』を積んで貰う」
ミッションを与え、それをクリアしたらごほうびに地球へ生き返らせてやろうというのである。課せられる試練といえば、もちろん野球だ。
転移先の異世界「ガリア」では、長いあいだ戦乱が続いていた。そのありさまにあきれた神様はおよそ30年前に現地民たちへ野球を教え、国家間の資源分配をはじめすべてのもめ事を試合で決める体制を敷いたのだという。
つまり、野球が戦争代わり。戦火による犠牲はなくなったものの、野球が弱ければ物も人もすべてをいいように奪われ、苦しい生活を余儀なくされる。そんな世界だ。
太一が請け負ったのは、そのなかでもとくに野球が弱い国家「フリーダム」への入植。働き盛りの者たちはみな試合で負けて外国へ連行され、いまは数人の女性と子供、老人で組んでいるどん底チームである。
しかし、わずか30年間の野球史しかない異世界に対して、太一が備えているのは数百年にわたり地球人類の野球界がねりあげてきた技術と理論。たとえ相手が人間をこえる身体能力をもった異種族でも、それが野球であるかぎりは勝ち筋がある。
太一は最弱あつかいされていたチームのメンバーそれぞれの隠れた強みを引き出しながら敵チームを翻弄し、超高校級ならぬ超異世界級のエースとして快進撃をはじめる──!
というわけで、異世界×野球のとりあわせがなんともユニークな本作。
人間より嗅覚と聴覚にすぐれた獣人がバッターボックスに立ったらどんなバッティングをしてくるか、など「人間ではない種族を相手に野球をする」という部分をしっかり描き、それでも試合内容そのものは現実的に理路整然として読み応えがある。考えてみれば、弱小チームの味方について勝たせてやる筋立てもそれ自体はとても正統派のスポーツ物だ。
しっかりと地に足のついた野球ドラマと、それを異世界という舞台で描く思いきったバランス感覚。それこそ、直球と変化球をうまく織り交ぜて投げる技巧者な選手のような作品だ。
©西田拓矢, 海空りく/講談社