2021.03.27
戦争終結まで大きな成果を上げ「救国の英雄」と謳われた主人公に与えられた、領民ゼロ人の土地。領主として第二の人生を歩み始める彼の行く末は…!?『領民0人スタートの辺境領主様 〜青のディアスと蒼角の乙女〜』風楼, キンタ, ユンボ【おすすめ漫画】
『領民0人スタートの辺境領主様 〜青のディアスと蒼角の乙女〜』
本日のおすすめは、「小説家になろう」投稿作から商業小説化された『領民0人スタートの辺境領主様』のコミカライズ版。「コミック アース・スター」で配信連載中の『領民0人スタートの辺境領主様 〜青のディアスと蒼角の乙女〜』を紹介したい。
舞台は剣と魔法の戦乱が渦巻き、ヒトに近くて異なる種族やおそろしいモンスターが存在する近世風ファンタジー世界。
主人公ディアスは、とある王国に生まれ育った熟練の兵士だ。齢15にして戦場へ飛び込み、戦歴20年を重ねて35歳。身体じゅうに傷あとを刻みながら戦争終結まで大きな成果を上げた彼は「救国の英雄」と謳われた。
“人の役に立つ仕事をするように”そして“弱い者を守れる男になれ”。
亡き両親の遺言をかたく守り、ただひたすら他人のために武器をふるったディアスに対する国王からの報いは、ひとつの領地を与えるという恩賞。
ところがどうも様子がおかしい。ろくな準備もさせてもらえぬまま送り出された先にあった領地は、見渡す限りだだっ広い草原、草原、草原。草以外に何も見あたらない辺境だった。当然、そんな場所に住む人間はいないし、町や村などもない。
領民ゼロ人の土地を治めなくてはいけない領主さま。手もとには衣食住なにもない。このままでは領地運営どころか数日で野垂れ死ぬ。
さてどうするか、と悩ましい状況に陥った矢先。ディアスに運命的な出会いが訪れる。それは、ひとりの見慣れぬ風体の女性だった。狩猟弓をたずさえ、王国の文化にはない民族衣装をまとい、額に一本の長いツノが生えている年若い人型異種族──亜人の少女・アルナーである。
「お前は私の敵か! 味方か!」
厳しく問うアルナーに、領主としてディアスが言うべきはひとつ。全力で「味方だ」という答え以外にない。するとディアスは少女の案内で、亜人の村へと導かれる。そこは人の目にうつらないよう魔法で秘められた、隠れ里だ。
族長の老婆に事情を話したディアスは、集落にいる亜人「鬼人族」が領民ではなく、むしろ王国とは敵対関係にある集団だと知らされる。かつて草原の支配権をめぐる争いに敗れ、逃げのびた民族なのだという。
国に仕えるディアスだが、いま彼が担う使命は領地に生きる者を守ること。そして何より、親の遺言にもとづく良心を裏切らないこと。ディアスは善良な人柄で族長の信用を得て、住居の資材や食糧などを提供してもらうかわりに鬼人族について王都には秘密にする約束を結び、協力関係をとりつける。
そこからもっと深く関わることになるのが、最初に出会った鬼人の少女・アルナーだ。ディアスが持ち前の戦闘力を狩りに活かして大物モンスターを仕留めた雄姿に惚れこみ、ぐいぐい迫ってきた彼女はディアスを押し切って結婚の約束をする仲に。
かくして新米領主ディアスは草原をよく知る少女を公私とものパートナーにつけ、居住区の開発、家畜の飼育を進めながら辺境の生きかたを学んでいく。すべては、今はまだ一人もいない領民を増やすため──。
というわけで、いわゆる「追放もの」からの開拓ジャンル(+戦記要素あり)にあたる本作。おもに関わる相手が一面雄大な草原地帯の牧畜系民族なので、西洋風のファンタジーからはすこしズラした趣が特徴となっている。
コミカライズはその風景や異民族の姿を視覚的に描き起こせるため、原作小説からいっそう持ち味が分かりやすい。また、ディアスが戦斧をふるって戦うさまの迫力もマンガでの大きな読みがいになっている。イメージのつかみやすさという意味では、漫画から先に入って原作を読む順番もありだろう。
追放ものは、主人公は悪くないのに酷い目にあってしまう構図をどううまく際立たせるかが作品ごとの見どころだが、本作の場合とにかく主人公ディアスの“気は優しくて力持ち”な性格造形を徹底しており、とても呑み込みやすい。
アルナーたち鬼人族には額のツノに宿る力で他人の魂を鑑定して嘘を見抜ける設定があり、それを通してディアスが領民のため誠心誠意尽くす真心をもつイイ奴であることは読者に対して完全に保証される。だから心おきなく彼を応援できるのだ。
追放先での伴侶との出会い、かつて戦場で絆を育んだ仲間との再会、不遇な亜人たちの解放を願う近隣領主との親交など、なにかと縁(えん)に恵まれるディアスだが、その恵みにふさわしい人物であることは読み進めればすぐにわかる内容になっている。
©風楼, キンタ, ユンボ/アース・スターエンターテイメント