2018.02.23
【日替わりレビュー:金曜日】『たとえとどかぬ糸だとしても』tMnR
『たとえとどかぬ糸だとしても』
つい最近2巻が発売された、tMnR先生の百合姫連載作です。はい、百合です。
普段そこまで百合作品を読むわけではないのですが、本作は表紙に惚れ込みまして、思わずジャケ買い。そしてそれが大正解でした。
高校生の鳴瀬ウタが抱える、誰にも言えない秘密……それは、実の兄のお嫁さんである薫瑠に恋をしていること。兄夫婦と3人暮らし。好きな人の近くにいれるのは嬉しいけれど、新婚だけにラブラブな二人の様子を見て、ウタの胸は張り裂けそうになるけれど……
小さい頃からずっと好きだった、幼なじみのお姉さん。その想いが“恋心”だと気づいたのは、そのお姉さんが兄のものになった、結婚式の時。離れて暮らしていれば、いつかは忘れられる日が来るかもしれないけれど、3人で一緒に暮らしているから、その想いは褪せるどころか、より強いものに。何より辛いのが、新婚でラブラブな2人の姿を日々目にしなくてはいけないこと。そして、姉が親切心から、一生懸命「家族」になろうと接してくること。そんな環境のなか、これが決して報われることのない恋であると、ウタは幾度となく自覚させられます。
想いを断ち切りたい…そう願うも、心は素直に従ってはくれません。想いを伝えてスッキリするなんてことも、距離が近すぎるからできません。前にも後ろにも進めない袋小路の中で、可愛い女の子がモニョモニョする、その様子がたまらなく切なく、そして何より美しい。暗い背景や絶望感を抱いているからこそ醸し出される美しさってあるじゃないですか。それを見事に体現したヒロインが出てきたなぁというのが、本作を読んでまず最初に出てきた感想です。
要するに、どう考えても幸せな結末にならない、悲しき片恋物語なわけで、作中での雰囲気は一定して暗いです。もちろん一緒に暮らしているがゆえに、ちょっとした嬉しい出来事が起きることだってあるのですが、それだって結局はひと時の儚い幸せ。根底に流れる「絶望」や「諦め」といった感情が、物語に終始影を落とします。
2巻では人間関係が大きく動く出来事が幾つか起こるのですが、ウタが置かれた状況に変化は見られず、その切なさはキープ。むしろくよくよとした思考を重ねるからこそ、切なさに拍車がかかった感すらあります。ハッピーエンドの予感は今なおなく、そしてこれからも決してその芽が出ることはなさそうですが、そんな悲恋物語がお好きな方にはうってつけの一作。
百合だからと食わず嫌いせず、是非色々な方に読んでもらいたいお話です。
©tMnR/一迅社