2021.04.28
おにぃに構ってほしい。ただそれだけが言えない、ブラコン中学生妹の反抗期。『反抗できない! いばらちゃん』藤原あおい【おすすめ漫画】
『反抗できない! いばらちゃん』
おにぃに構ってほしい。ただそれだけが言えない、ブラコン中学生妹の反抗期
お兄ちゃんのことが大好きで甘えたいんだけど素直になれない妹、という文字列を見てピンと来るタイプの人は、今すぐにこの漫画を買いにいこう、なんなら電子書籍ですぐ読もう。あなたの求めているものはここにある。
中学2年生の柊いばら(ひいらぎ・いばら)は、いわゆる反抗期の女の子。大学生のお兄である柊杏吾(ひいらぎ・きょうご)を「おにぃ」と呼んで、ちょっかいを出しては文句ばかり言って手がつけられない反抗っぷりを日々続けている。
実際のところは、兄のことが好きで好きでしかたなくて、ただ素直に甘えられないからわがままを言って絡んでいるだけ。
ゲームをしている兄に構ってもらいたくてこっそり二人プレイ用のゲームを買い揃えて「友達がたまたま忘れていったんだけど」と突きつける。
兄の漫画を借りて読みながら「サボらないか私が監視しといであげる」と部屋のベッドに寝転がり続ける。一緒に映画を見たくて居間にポップコーンとジュース2本を並べておく。度が過ぎたところまで行っている気もするが、それでも家族関係を全く越えていないのが、いばらの「構ってほしい」ラインだ。
ほぼ毎ページ、いばらが素直じゃないムーブで兄に絡もうとしているので、これで気づかない方が頭おかしいのでは……? と思ったら2巻では兄以外全員(初対面の人ですら!)いばらの好意に気づいているという、なんとも恥ずかしい事態にまで展開している。
特にいばらのクラスメイトである阿左美瑠璃(あさみ・るり)と黒井百合(くろい・ゆり)は、いばらの素直になれないムーブをわかっている、良き理解者。あまり踏み込みすぎず、ちょっとからかいつつ、ちゃんと彼女の気持ちをフォローしてまわる、見事な立ち位置の友人キャラクターになっている。
幼馴染で杏吾に恋愛感情を抱いている栗山くくり(くりやま・くくり)にしてみれば、うろうろつきまとういばらは邪魔でしかない。できれば引き離したい存在のはず。いばらもくくりがつきまとうのは好んでいない。なのに、いばらがあまりにもピュアに兄が好きすぎるので、つい優しく許してしまう瞬間があるほど。登場人物がみんないばらの保護者状態だ。
いばらの兄への好感が、男女の恋愛的なものなのか、家族愛のようなものなのかをはっきりと分けて描いていないのがミソだ。「おにぃが!」とつっかかりつづけてくるものの、彼女が求めているのは一緒にいてくれて、自分に意識を向けてくれること、構ってくれることだけだ。
だから一緒にゲームをしてくれたら大満足だし、一緒に買物に行けたら表情はとてもハッピー。高いものを買ってほしいとか、キスしてほしいとかは全く考えていない、極めて純朴な子供だ。むしろ自分がどう兄にプレゼントするかで悩むくらい。好きだと言ってほしい、という深い愛のリターンすら求めない。
一応客観的には反抗期らしい言動があるものの、基本的に妹が兄に、家族に甘えたい、構ってほしい、という裏表のなさすぎる純粋な思いが根底にあるので、この作品は非常に安心して読めるし、いばらの幸せを願いやすい。
2巻は特に、客観的視点の友人二人の登場で、よりいばらのピュアな魅力が掘り下げられている。彼女は素直であるがゆえに、誰にでも愛されるタイプの人物だ。
いばらはものすごいかわいらしい見た目と性格のキャラクターだ。でも、この作品を読んだ人は「いばらが自分に対してこういう態度を持ってもらいたい」とはならないかもしれない。「おにぃと仲良くできるように助けてあげたい、そして笑顔になってほしい」という気持ちのほうが強くなる、子供の成長を見守る気持ちになれる作品だ。
©藤原あおい/KADOKAWA