2021.05.01
ゾンビのいる世界で「日常」を送る様をゆるっと描いた、ゾンビ×日常系のコメディホラー!『醤油を借りにいくだけで死ぬことがある世界の中級サバイバルガイド』 荒井小豆【おすすめ漫画】
『醤油を借りにいくだけで死ぬことがある世界の中級サバイバルガイド』
本日のピップアップは「ニコニコ静画」で配信中のこちら。ゾンビ×日常系のコメディホラー『醤油を借りにいくだけで死ぬことがある世界の中級サバイバルガイド』だ。
とある地方都市でゾンビ災害が発生し、国が築いた壁により物理的な隔離がおこなわれてしばらくの月日がすぎたころ。壁内にはいまだ、少ないながらも生存者がいた。
表には動く死体の群れがうようよしており、ちょっと油断すれば襲われて命が危うい環境が四六時中続いている。だが、逆にいえばそれなりに警戒してそれなりの対策をとれば、それなりに生活できる環境ではあった。
明るく調子のいいおバカな吉竹、いつも淡々として表情も内面も読みづらい馬場、真面目さゆえに苦労しがちな浅井。この女子トリオは一軒の下宿に立てこもりながら、死人には持ちえない頭脳と度胸とテクニックを駆使して命ある日々を謳歌していく。
という具合に、ゾンビのいる世界で生活を──それも“日常”と呼べる生活を送るにはどうすればいいかを肩の力が抜けたトーンで追求した作品になっている。
音を立てて誘導する、ゾンビのふりをしてやりすごす、爪や歯を通さないぶ厚い着ぐるみを身につける、etc.
このジャンルに親しんだ者なら一度は「自分ならこうするのにな〜」「この設定だとこういう問題が起きるんじゃないか?」と思いついたり、または実際に何らかの作品の中で描写されたことのあるネタがふんだんに散りばめられ、タイトルで「中級」を掲げるにふさわしいメタな親近感を読者に与えてくる趣向だ。
そんな本作の連載開始は2016年。当時としては、ひとつの災禍で世界のありさまがガラッと変わるレベルの非日常がそのままに日常化するシチュエーションは、一種のズラし芸という観だった。ひどいありさまなのにこの子たち呑気でタフだなあ、その調子外れが軽妙でおもしろいなあ、と。
しかし2021年現在はどうだろうか。
国が強い警戒を発し、個人個人が対策を怠ると命を落とす危険があり、身を清めて家にこもるのが最適解とされる感染系の災禍。形の変わった暮らしかた。けれどそれが一年以上続いたことでなんとなく慣れが生じつつある肌感覚。そうした“慢性化した非日常”を我々はリアルに知っているのではないか。そのまっただなかに身を置いているのではないか。
そう考えると、シリアスな世界でゆるい日常に生きる吉竹たちの姿はズラしどころか、そのまんま直球でリアリティのある図として再規定されてくる。
作品やキャラクターの側はブレなくても、本を手に取って読む我々の側の変化によって作品のニュアンスが上書きされる。そういうこともあるのだ。
その意味で、未読のかたはもちろん、以前に既読してしばらく離れていたというかたもあらためて“今”読んでみる意味がある一作といえるだろう。
©荒井小豆/KADOKAWA