2021.05.15
新人マンガ家と座敷わらしの少女が繰り広げる、ほのぼのした癒し感たっぷりの不思議なホームコメディ!『マンガ家先生と座敷わらし』ぬっく【おすすめ漫画】
『マンガ家先生と座敷わらし』
本日紹介するWeb漫画は、作者・ぬっく氏がTwitter上で公開した作品からの商業化タイトル。デジタル雑誌「コミック アース・スター」本家をはじめpixivやニコニコ静画でマルチ配信され、全29話・単行本全4巻でいったん完結を迎えた『マンガ家先生と座敷わらし』だ(現在は同人ベースで後日談が販売中)。
とある新人マンガ家が引っ越した先の、安アパートの一室。その部屋には、いつも彼のことをひそかに見守る超自然の存在があった。
それは、座敷わらし。家に棲みついて幸せをもたらす妖怪である。着物姿のちんまり小柄な女の子だが、他人にその姿は見えず、声も伝わらない。さらにこの子の場合は幸運を呼ぶ能力が弱いため、宿主であるマンガ家先生が仕事に詰まって冴えない様子なのを気にしている。
とはいえ、本人が悩むほどには彼女が役立たずということはない。
実はマンガ家先生、ふつうの人には見えない座敷わらしを何故だかしっかり認識できている。彼女がいつもちょっとしたお掃除や食べ物の用意など家事をさりげなく手伝ってくれていると気付いているのだ。しかも先生の描くマンガのキャラクター絵をお気に召したらしい彼女が、仕事中の手元をのぞきこんできては感情表現ゆたかに反応するのをなんとも微笑ましく感じている。
才能に自信がもてないまま負担の大きな作業を続ける憂鬱な日々のなか、自分を優しく気にかけてくれる座敷わらしのけなげなふるまいは温かい支えなのである。
ネックなのは、姿が見えても声は聞こえないため、彼女の細かい事情を確かめられないこと。あるいは、もしも自分が認識しているとバレたら彼女は消えてしまったりするのでは? そんな可能性が心配になり、うかつに話しかけることができない。
気付かれていないと思っている妖怪と、気付いていないふりにつとめる人間。ふたりの同居生活がきょうも穏やかに続いていく……。
というわけで、妖怪ものとだけ言うにはとてもほのぼのした癒し感たっぷりの不思議なホームコメディである。人知れずお手伝いする棲みつき霊という点で、いわゆる“妖精さん”や“小人さん”の互換めいた風情とも形容できる。
そんな本作の肝は、やはりシチュエーション。“気付かないふりの同居”の奥ゆかしさだろう。
作ってもらったごはんに対して、美味しいよとは言ってやれない先生がふと「うまいなぁ」とつぶやいた独り言が座敷わらしを喜ばせる図の尊さ。その関係性の輝きは、直に言葉をかけて褒めたらそこで打ち止めになってしまうものだ。
他にも、感謝を伝えるための行動をしてみたら誤解によって逆にさらなる思いやりを返されるという優しい循環が描かれるエピソードもあり、縛りのあるコミュニケーションだからこそ、それに努める真心が浮き彫りになる妙味が本作の随所にあふれている。
さて、そうした趣をかみしめるにあたり、ふと頭をよぎった連想がある。
Twitterなどでしばしば「直接リプライを送り合うような交流はしていないが、いいねやリツイートをよく付けてくれるアカウント」のひとがいて、お互いずっと無言のままに親しみを募らせるなんてことがあるよなあ……そんなSNSあるあるだ(そういえば本作はもともとTwitter発なんですよね)。
人間と言外の交流を重ねる妖怪は現実にいなくても、“そういう関係”は私たちのまわりで実際に見いだせるものだろう。ちょっと意識してみれば、あなたの暮らしのどこかに座敷わらしにあたる誰かがいるかもしれないし、あなたが誰かにとっての座敷わらしかもしれないのだ。
©ぬっく/アース・スターエンターテイメント