2021.06.08
シリーズ完結作!? 最高に恵まれた環境での映画制作──で終わるはずがない!『映画大好きポンポさん3』杉谷庄吾【人間プラモ】【おすすめ漫画】
『映画大好きポンポさん3』
劇場アニメ『映画大好きポンポさん』の上映が2021年6月4日からついにスタートしました! ということで、今回は原作コミックの最新作『映画大好きポンポさん3』についてご紹介したいと思います。
『映画大好きカーナちゃん』のラストで、ポンポさんの祖父・ペーターゼンとタッグを組み、新たな映画制作に臨むことが示唆された映画監督のジーンくん。このシーンの直後から、『映画大好きポンポさん3』の物語は幕を開けます。
湯水のような制作費を与えられ、ペーターゼンのコネによって一時代を築いた名優をキャスティングし放題。スタッフにはジーンくんの理解者もいて、これまでで最も恵まれた環境の中、映画制作は順調な滑り出しを見せます。
一方の幼い女の子ながら天才映画プロデューサーであるポンポさんは、ペーターゼンが現場に復帰している期間中、年相応に学校に通うことを勧められ、同年代の女の子たちと一緒に普通の女の子らしい日々を過ごすことに。ポンポさん自身、「こういう平和な時間も悪くないか……」とまんざらでもない様子。
なんだかいつもと違って穏やかな導入です。はい、シリーズの読者や、すでにアニメ映画を観た方ならお察しの通り、本作がこのまま終わるはずはありません。狂気のような渇望。これに身を捧げることによってたどり着ける境地がある──というのが、『映画大好きポンポさん』の創作論だったはずです。
今回もジーンくんは、自ら望んで崖から飛び降りるように、地獄のような日々へと舞い戻ります。その上、創作衝動の塊のようなジーンくんですから、以前と同じようなことなんてやりたいはずがありません。これまで経験したことのない過酷な状況に、肉体も、精神も擦り減らしながら挑むことになります。
もちろんポンポさんをはじめ、彼を見込んだ人たちも、そんな創作の狂気に当てられてしまった連中です。ジーンくんやポンポさんの熱にやられた映画馬鹿、創作馬鹿たちが続々集結。過去作の主要キャラクターが多数登場する“オールスター作品”の様相を呈しつつも、意外な人物にスポットが当たったり……。彼らの熱量がぶつかり合うことでドライブするように、物語はラストまで駆け抜けます。この圧倒的な爽快感もまた、『ポンポさん』シリーズの魅力。3作目でも、まったく衰えることを知りません。
著者のあとがきを引用すると、「おそらくポンポさんを描くのは今回で最後」とのこと。しかしそんな作品のラストでも、ジーンくんとポンポさんは立ち止まることを良しとしません。きっと彼らはいまもどこかで、さらなる傑作を生み出すためにもがき続けているのかもしれない──“現状維持”に中指を立てるようなメッセージには、病的でありつつも最高に清々しさも感じられます。
少しでも“創作”に携わっている人なら、背中を強く押された気持ちになれるはずです。
これまでに単行本として発売されたシリーズ作品は以下の通り。
・『映画大好きポンポさん』
・『映画大好きポンポさん2』
・『映画大好きフランちゃん』
・『映画大好きカーナちゃん』
・『映画大好きポンポさん the Omnibus』
・『映画大好きポンポさん3』
読めば読むほど、何かを“創造”することに身を捧げる苦しみと、それとは比べものにならないくらいの喜びを思い出させてくれる当シリーズ。まだ読んでいない作品がある方は、ぜひそちらも手に取ってみてください!
©杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA