2021.07.15
ホームステイをしに来た金髪美少女と咄嗟の嘘で付き合い始めたが…!?心が罪悪感で押しつぶされる、禁断のラブストーリー。『金の糸』稲妻桂【おすすめ漫画】
『金の糸』
ホームステイをしに来た金髪美少女と付き合い始めたけど、心が罪悪感で押しつぶされ続けている件
転校生はフランスの金髪美少女だった。しかも僕の家に、ホームステイするらしい。勢いで告白っぽいことをしてしまったところ、うまくいっちゃって彼女にすっかり懐かれてしまった。どうする僕……!?
なんて書くとものすごい王道なラブコメの導入に見えるが、この作品は嘘の重みに押しつぶされ続ける男子学生の悶々とひりついた日々を描く、重苦しいこじれた物語。飲んだジュースの間接キス、一緒のミサンガ、居間でもつれて倒れ込んで目が合う……などラブコメや純愛ものだったら胸キュンなシーンが多いハズなのに、どれもこれもが後ろめたさを抱えたままなので、ハッピーなシーンほど見ていて冷や汗が出る。
尾崎草一(おざき・そういち)はパッとしない男子学生。彼は藤野真夏(ふじの・まなつ)というクラスメイトの女子に憧れ、遠くから眺めていた。そんな彼の元にホームステイでやってきたのが、フランス人少女のサラ・ガルシア。明るく元気な彼女に、草一は自分のあることを隠すために咄嗟の嘘をついてしまう。
「一目惚れだったんだ…!」「サラのこと大好きになっちゃったんだ!!!」
適当すぎる虚偽の発言。しかしこれを情熱的アプローチとして受け取ったサラは、彼と恋人になったと認識。ぴったりくっついてくるようになる。けなげにおそろいのミサンガを準備し、顔を赤らめながらキスをしてくる。見つめてくるサラの瞳は恋に正直で、心底草一を信じ切っている。サラが笑顔になればなるほど、自分が彼女を騙していることで苦しくなり、さらに嘘を重ねてしまう。
サラがどこまでも裏表なく、まっすぐに草一を愛しているのが本当にかわいらしく描かれている。だから草一の嘘をつく逃げっぷりに、読んでいて苛立ちを覚える人もいるかもしれない。責任とって真夏のことを忘れてサラとちゃんと向き合えよ!という気持ちが読者側にどんどんわいてくる表現がとても多い。
ただここで、クラスのマドンナだと思っていた真夏が意味深に詰め寄って来て一筋縄でいかなくなるのが面白い。真夏はサラと草一が付き合っていることを聞き、理解してくれるのだが、同時に草一が嘘をついていることもうっすら見破っている。真夏の挙動ひとつひとつが草一の皮を剥いでいくため、彼女の言葉に逆らえない異様な圧力を感じさせてくる。
この「無邪気」「嘘つき」「暴露」のバランスで、ラブコメと同じシチュエーションにも関わらず全部が緊迫感にひっくり返っていくのが見事。嘘を嘘で塗り固めていく時、本当の自分がなんなのかわからなくなっていく、青春の虚像の物語だ。
ちなみにタイトルの「金の糸」は、序盤に出てくるあるものと重なって見える。それは笑えちゃうかもしれないけれども、実際に学生時代だったら人生を棒に振りかねない恐ろしいもの。もしこの「金の糸」に他の意味が出てきたら、さらに緊迫感が増してきそうだ。
©稲妻桂/講談社