2021.07.25

天国と地獄のあいだにある「辺獄」。探偵社を開くガイコツ男をはじめ、個性豊かなホラーキャラクターによるほのぼのコメディ!『やすらかモンスターズ』竹谷州史【おすすめ漫画】

『やすらかモンスターズ』

今回紹介する『やすらかモンスターズ』は、2017〜18年にかけて講談社の月刊「モーニング・ツー」誌とWebコミックサイト「モアイ」で並行連載されたホラーコメディ漫画。いや正確にはホラーキャラクターによるほのぼのコメディ漫画である。

舞台は、あの世。ただし天国でもなければ地獄でもない、それらの狭間にある世界。カトリック用語でいうリンボこと“辺獄”だ。

多種多様なモンスターたちが暮らして年がら年じゅうハロウィン状態な辺獄で、主人公の骨人間ボンゾ・スカロバニアは探偵業をいとなんでいる。ところがここに問題がひとつ。そもそも死者たちの国では殺人事件をはじめとした深刻な死傷沙汰がめったに起きないのだ。だってみんなもう死んでるからね!

おかげで探偵社にもちこまれる依頼は子守り・お掃除・洗濯といった所帯じみた雑用ばかり。すっかり便利屋の風情をかこっているボンゾだが、難事件をさっそうと解決する名探偵になりたい情熱は止められない。

「毎日誰か誘拐されればいいのに!」

身近に起きる出来事にトラブルを求めて勝手に興奮しては肩すかしをくらうボンゾを中心に、ボンゾの助手で同居人のニート吸血鬼ヴァンピー、動画配信やSNS活動をこなす賞金稼ぎゾンビのネロ、グラマラスな長身にツギハギがフェティッシュなフランケンシュタインの怪物系女子といったアンデッドたちがおりなす平穏な事件の数々が、きょうも辺獄でにぎやかに繰り広げられる……。

カートゥーン調のポップかつディフォルメがかった描線がなんとも目に心地いい。骨や死体といったモチーフから生臭さをうまく脱臭したビジュアルは、死にまつわる美醜も重さも暗さも作品に背負わせない。天国と地獄のどちらにも属さず、あるがままの軽さをもつ世界の説得力が、絵柄そのものからうまく生み出されている。

それだけに、本作のクライマックスとなる第25〜26話は表現レベルから必見だ。

とあるトラブルで辺獄から遠く隔たった外へ転送されてしまったボンゾたちは、写実度を上げた絵面に切り替えて描かれた地上の風景——つまり我々の生きているこの世界を目の当たりにする。いつものポップな見た目のボンゾたちと、頭身を増して描き込みを高めた人間とのつかのまの接触は死者と生者をおたがいに彼岸のものとして線引き、辺獄のモンスターたちがいくら活き活きしていてもやはり死者ではあるのだと念押しする。

そこには本作を通してずっと超倫理・超現実の世界に心を遊ばせていた読者を改めて生きた世界へ向かわせる、誠実なうながしが受け取れる。ほのぼのしたシチュエーションコメディにひとつまみのしみじみ感も加えた、読みがいのあるマンガだ。

なお、最初に述べたとおり本作は紙の雑誌とWEB配信でほぼ交互に回を重ねる特殊な並行連載の形式をとっていた。いまからまとめてチェックするなら、全3巻の単行本で読むのが手っ取り早いだろう。

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miyamo

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