2021.09.15
リアリティショーでの自殺を防げ。男女シェアハウス生活の公私入り交じるいびつな入れ替わりミステリー『僕たちのリアリティショー』ふみふみこ【おすすめ漫画】
『僕たちのリアリティショー』
リアリティショーでの自殺を防げ!男女シェアハウス生活の公私入り交じるいびつな入れ替わりミステリー
国内外、テレビで人気のリアリティ番組。男女が集まって一つ屋根の下生活したり旅に出たりして、その時に生まれる恋愛や友情を撮影するスタイルは演劇と違う生々しさがあって面白いものだ。しかし同時にトラブルが発生すると、取り返しのつかないことになる危うい企画だ。
このタイプの番組の面白いところは公私がぐちゃぐちゃで覗き見している感覚。そして不気味なところは、私を公のように混同させて視聴者に見せる演出。とはいえどこが公でどこが私なのかは、参加している本人にしかわからない。
ふみふみこ先生がフィクション作品として描いたのは、リアリティショーに参加している女性と、他の一般男性の入れ替わり漫画だ。こうすることで、公と私の境界線を客観的に見ることができ、そこにある混沌を理解できる巧みなシチュエーションだ。
単純作業が好きでおとなしい青年・柳。彼の幼馴染いちかは元気いっぱいの女優志望。いちかは芸能人の登竜門としてシェアハウスで暮らすリアリティショーに出ていたのだが、撮影中自殺してしまう。とても自殺をする人間に思えなかった彼は混乱してしまうが、目を覚ました時彼は自分が「自殺する半年前のいちか」になっていたことに気付かされる。そして柳の中には、いちかが入ってしまった。
タイムスリップ要素を含んだ複雑な入れ替わり。しかし撮影は続いている。柳は半年後にいちかが自殺する事実を知りつつ、シェアハウス撮影に代理で、いちかの姿で参加することを決意する。
なぜ自殺したのか、という理由を探るミステリー要素を含みつつ、リアリティショーの裏側でこじれる人間関係を描く作品。ルームシェアしているみんなが悪人というわけではなく、それなりにお仕事を全うしているため、出てくるキャラクターにはさほど嫌味はない。ただ環境のいびつさは見ていて息が詰まる。
あるイケメン男性は夜中に唐突に、いちか(柳)にキスをする。唐突すぎてびっくりしていたところ、背後にカメラがあることに気づくいちか(柳)。その後そのイケメンが好きな別な女性がいちか(柳)に対して激しく嫉妬。シェアハウス会議が行われる……のだがそれが「自分」を演じざるを得ない状況での疑似会議。
どうやったらテレビ受けする美談を作れるか、本心と別のところで演じていたいちか(本物)の気持ちを、柳は知ってしまう。
ようはカメラに映っているのは全部「演じられたキャラクター的自分像」であって、おそらくみんな等身大の自分ではない。完全なフィクションのショーだと割り切れればいいのだが、中途半端にリアルも混じるから心がおかしくなる。真っ黒な芸能界の裏事情も入ってきて、何がいちか(本物)の自殺の引き金かわからなくなる展開も、かなりグロテスクだ。
人間の虚実がぐちゃぐちゃになって不安が募る作品ではあるが、いちか側は本来の破天荒さゆえに、柳の姿で完全リアルな素の笑えるひっちゃかめっちゃか生活を見せてくれるため、ふたりの視点が切り替わることで緩急があってぐいぐい読み進められる。
リアリティショーを否定する単純な作品ではないと思う。「演じる」という表現の美しさと気持ち悪さの混沌に挑んでいるのだろう。
半年後までに柳がいちかの自殺の原因を突き止められるのか、はたまた柳がリアリティショーに飲み込まれて狂っていくのか、あるいはいちかが柳の体でハチャメチャするのか。ミステリー作品として今後明かされていくであろう展開が見ものだ。
©ふみふみこ/講談社