2021.09.22
かつての仲良しクラスによる、極限精神実験漫画完結。人は過去の呪縛から解き放たれるのか!?『なれの果ての僕ら』内海八重【おすすめ漫画】
『なれの果ての僕ら』
かつての仲良しクラスによる、極限精神実験漫画完結。人は過去の呪縛から解き放たれるのか!?
先日完結した『なれの果ての僕ら』はいわゆるデスゲームスタイルの作品。デスゲームものは閉鎖空間に閉じ込められた人間たちの、命に関わる無茶なゲームに巻き込まれた時の心理状態から、人間の深層心理を描くことができる。いわば架空の人体実験だ。
この漫画では「人の善は極限状態でどこまで耐えられるか」の実験として、16歳の夢崎みきおが小学校6年生の時の同級生を同窓会に招いたところからスタート。
かつて仲が良かったり悪かったりした、一旦中学時代を挟んで5年経った人間を集めている。この5年という歳月がなかなか絶妙。「久しぶり」でありつつも、かつての感情をまだ強く持っているくらいの距離感だ。
夢崎みきおの実験に、かつての仲間だった高校生たちはひたすら振り回される。当然死にたくないと拒絶したり責任をなすりつけたりと、あっという間にパニックの連続。
興味深いのは、負の感情のほとんどが5年前の体験に基づいているという部分だ。たとえば委員長として信頼されていた橘公平は、雨宮鈴子に命を救ってもらうようお願いする。
ところが雨宮は小学校の時、裏でこっそり橘にいじめられていたことをみんなの前で暴露。結局は命を救ったものの、雨宮はこれによって橘の仮面を剥がし、みんなの信頼を壊した。生き残りたいと願う人々の前でこれは致命的だ。
物語は次第に「善」云々ではなく、6年生の時に起きたトラブルや信頼関係が引き金となって、感情を乱して生死を分け始める。実験に便乗して、6年生時のいじめの怨恨を晴らすべく無関係に殺す人間も出てくる。逆に6年生の時の経験が元で、命がけでも相手を助けようとする人間も現れる。ここに気づくと、夢崎みきおの実験の真意が見えてくる。
一話の冒頭は事件後からスタートし、何人がどのように死ぬのか明記されている。作中では生き延びたキャラクターたちが取材を受けるシーンも入る。誰が残るかを幾度も仄めかすのは、ミステリーとして面白い演出。デスゲーム風の流れをなぞってはいるものの、殺し合いは狙いではない。「誰かが死なないと進めない」というルールは存在しない。あくまで実験なのだ。
頑張ろうと協力し前向きになるキャラクターは比較的多い。4人の「王様」を決めた後、自由に相手に電撃を流せるリモコンを与えられるシーンがある。リモコンを使用したのは一人だけ。他のキャラクターたちは心を保つべく、協力する姿勢を取っている。途中で道を踏み外して同級生を傷つけてしまう人間も出てくるものの、反省をしたら受け入れようと努力するキャラクターも多い。
次々人は死ぬし、事件が二転三転して驚かされるシーンが続出する。決して後味がいい作品ではない。しかし生き延びたメンツの過去と決別する努力の描写は、前向きな成長の爽やかさすらある。これもいわば、実験の結果ともとれる構造だ。
3日間という限定された期間の中で、かなりジェットコースターな展開が次々繰り広げられる本作。中でも正義感が強く身体を張って戦おうとする主人公・ネズこと真田透の行動はかなり特殊で、最後まで見ごたえがある。夢崎みきおの考えていた、行き過ぎたスタンフォード監獄実験のような実験が何を意味するものになったのか、見届けてほしい。
©内海八重/講談社