2021.11.21
魔術の研究を探求していた庶民が転生したのは王子!?桁外れの魔力を持ちながら魔術を極めていくファンタジー作品!『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』 石沢庸介, メル, 謙虚なサークル【おすすめ漫画】
『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』
さて、本日のピックアップは「小説家になろう」投稿作からのコミカライズで人気を博しているファンタジー作品。講談社「マガジンポケット」ほかで配信中の『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』だ。
血筋と才能によってあつかえる魔術の強弱が容赦なく決まる世界で、ひとりの男が殺された。彼は地位にも名誉にも興味をもたず、ただ魔術の研究に喜びを見出す探求者だった。しかし、自身に備わったのはささやかな魔力だけ。不運な、いち庶民であった。
身分だけでなく魔術でも圧倒的な格差がある貴族からの私刑で炎の魔法攻撃を浴びた男。死の間際に思い浮かべたのは、怒りでも悲しみでもない。すべての条件に恵まれた者が放つ強力な術はなんと素晴らしく美しいのか! そんな感嘆と、もっと魔術を学び極めたかったという切なる願いだった。
それは、思わぬ形で叶うことになる。男は記憶を保ったまま生まれ変わり、彼が生きたサルーム王国で第七番目の王子・ロイドとして人生を赤子からやり直すことになったのだ。
王宮には魔法について記した蔵書がたくさんある。そこに王族の血統からくる才覚と前世の知見があわされば、研究はこの上なくはかどるだろう。幼い体の内側に多大な魔力と情熱をたぎらせたロイドは、きょうもウキウキと心おもむくまま目についた魔術を調べたおしていく。
魔法に関わる事柄に出くわすと瞳をキラッキラに輝かせるロイドの姿はいかにも好奇心旺盛な男の子といった風情でなんとも愛らしい。
作画担当の石沢庸介氏が描く少年は絶妙にむちっとした手足や反りのいい腰つきがどこか煽情的で、興奮したさいの表情描写もあいまってなよやかなショタのエロティシズムに満ち溢れており、その系統がお好きなかたにはたまらない造形となっている。
……のだが、そんなショタっ子が敵のくりだす恐ろしい術をわざと喰らってでも嬉々として分析にはげむ姿にだんだん「あれ、この主人公かなりヤバいな?」と戦慄させられる落差が本作のポイント。
血を流し肉がえぐれてもにじり寄ってきて、もっとお前の魔術を見せろ見せろと追い詰めてくるロイドに、本来は人間をコケにするはずの魔人やモンスターたちがドン引き恐怖させられるさまは爽快を通り越して壮絶。敵のほうがかわいそうにすらなってくる。キラキラしたように思えた瞳の輝きは、実際はギラギラと飢えた獣の眼光なのだ。
とにかく、ロイドくんはキャラがブレない。
国土を守ることはあっても、その理由は研究の拠点を壊されては困るから。人助けになることをしても、動機は試したい魔術があってちょうどいい標的がいるから。徹頭徹尾、筋金入りの探求者だ。
そこでふと気づく。ああ、これっていわゆるマッド・サイエンティストなんですよね。倫理的にはギリギリのきわに立って、結果論でヒーローになっているスリリングなキャラクター。
それをふまえ、改めてタイトルをみれば「気ままに魔術を極めます」の「気ままに」はのんびりした気まぐれに任せるという意味などではなく「狂気レベルの執念が導くままに」というかなり圧の強いニュアンスに感じられてくる。
また、そうした主人公の性格的な凄みをささえるビジュアルにも注目したい。無垢なショタ顔から悪魔的ともいえる表情への切り替わり、身体に宿る高密度な魔力のイメージ表現、魔術が発動する空間の異界感、手に汗握るスピーディーな戦闘の演出などなど表現の手数がたいへん豊富。
たんに原作のプロットを流し込むような惰性ではなく、がっつりと“マンガならではの映像として見せる”パワーに満ちたコミカライズの好例となっている。
©石沢庸介, メル。, 謙虚なサークル/講談社