2021.12.14
日本の国技「相撲」と洋風異世界がパワフルすぎる化学反応を起こした異世界ファンタジー!『大相撲令嬢 〜前世に相撲部だった私が捨て猫王子と はぁどすこいどすこい〜』川獺右端, 村上ゆいち, 影崎由那【おすすめ漫画】
『大相撲令嬢 〜前世に相撲部だった私が捨て猫王子と はぁどすこいどすこい〜』
本日紹介する漫画はこちら。日本の国技と洋風異世界がパワフルすぎる化学反応を起こした異世界ファンタジー活劇『大相撲令嬢 〜前世に相撲部だった私が捨て猫王子と はぁどすこいどすこい〜』だ。もとは「小説家になろう」に投稿されたWeb小説で、その商業版からのコミカライズが本作となる。
原作および漫画のWeb配信時タイトルはもう少し長く、『大相撲令嬢 〜聖女に平手打ちを食らった瞬間相撲部だった前世を思い出した悪役令嬢の私は捨て猫王子にちゃんこを振る舞いたい はぁどすこいどすこい〜』という。
いやあ、優勝。タイトルで勝ち確定ですね。声に出して読みたい美しい日本語です。
まず、大筋だけで言えばWeb小説界隈で盛んな悪役令嬢フォーマットをとった趣向ではある。
乙女ゲー世界へ転生した女性が憎まれ役のキャラクターに据えられてしまい、フィアンセの王子様を主人公キャラに奪われ婚約破棄。社会的苦境に立たされるも、前世の知識・特殊な力・本来の人柄などによってゲームの展開をがらりと覆す……。
だがしかし。もしも、その知識や力というのが【相撲】だったらどうなるか?
そりゃあ面白いことになるに決まってる。
婚約者をめぐる修羅場で聖女と呼ばれるメインヒロインに陥れられた悪役令嬢フローチェ。きついビンタをくらったショックで脳内に閃いたのは前世の記憶だ。
ビンタ……つまり張り手……そうだ、相撲だ! かつて自分は大学で女子相撲部に所属し、心身を鍛え上げた相撲取りだったのだ!
理不尽な言いがかりで自分を陥れた相手から、相撲にもある技で屈辱を与えられた。大人しく引き下がるわけにはいかない。ぐっと重心を落としたすさまじい突進で聖女を、そして止めにきた貴族青年をふっとばすフローチェ。
相手がメインヒロインだろうが攻略対象のイケメン王侯貴族キャラだろうがおかまいなし。悪があるならすべて相撲で成敗してくれる!
やがてフローチェは政治的陰謀から処刑を待つ身となっていた獣耳ショタな第二王子リジーと出会い、牢から救い出す。ゲームで推しキャラだったリジー王子と近づけてフローチェはほくほく。他所で拉致された国王を助けようと動く王子を守り、大相撲令嬢の旅が始まった──!
超自然の術を操る魔道士・剣に秀でた騎士・屈強な戦士といった剣と魔法の世界ならではの敵に相撲をぶつける異種格闘がなんともくせになる本作。
ゲーム的異世界あるあるな”ステータスオープン”で開くのが自分や相手の戦力を序列化した番付表だったり、相撲ルールによる戦いを強制する土俵を召喚したり、虚空から塩を取りだして目潰しに使えたりと、出オチで終わることなく“ファンタジーバトル化した相撲”のありさまを続々と描き込んでいくのが愉快痛快だ。
しかも、そこまでハジケたことをやっても意外と悪ふざけでなくまっとうにアツいテンションを味わえるのがいいところ。
これはおそらく「相撲は神事である」という本来の相撲のありかたをうまく応用しているからだろう。日本の相撲は古来からよく神道と結びついて神社への奉納物にもなり、その勝者は神に近づく存在と讃えられてきた。相撲の対戦はそれ自体が霊的儀式なのだ。
だから相撲の道を正しく歩む力士は聖性を帯び、四股をふめば大地を清めて悪霊を祓うとさえ言われるわけだが(相撲漫画の名作『ああ播磨灘』でも四股による憑きもの落としが描かれてましたね)、そこを「四股にはアンチマジックの効果がある」とエンタメ的に言い換えた手際には笑いと感心を同時にもよおされる。なるほど、たしかに魔法使いに勝てるわそれは。
コミカライズとしての見どころは、相撲に注ぎ込む闘争心が狂気的なレベルでぐつぐつ煮詰まっているフローチェ迫真の表情描写と力強いモノローグをいい塩梅で組み合わせた画面構成。
敵との間に体重差や筋力差など物理的な壁があっても「相撲は魂で勝つ」の信念で押し通す図に説得力を与えている。どのページをめくっても、ああこの子は相撲が本当に好きで最強だと信じているんだな〜とビシバシ伝わり、つられて読者の気分も高まってくるのだ。熱にあてられる、というか。
読むと元気が出てくる、という形容が似あう漫画である。
©川獺右端, 村上ゆいち, 影崎由那/アース・スターエンターテイメント