2021.12.24
地球を滅ぼしかねない人類の敵「ファージ」との命がけの戦いを描いた、ボーイ・ミーツ・ガールストーリー。『君の戦争、僕の蛇』中野でいち【おすすめ漫画】
『君の戦争、僕の蛇』
少年少女が愛する人のために命を賭して戦うなんて何も美しくない、あまりにも残酷だ
若者が命を賭けて戦う場合、最も原動力になるのは何かと問われたら、おそらく信念か愛情のどちらかだろう。もっとも信念はそうそう若い時には持っているものでもないので、そうなると愛情が一番「死んでも構わない」と感じさせるだけの力になりやすい。
『君の戦争、僕の蛇』は地球を滅ぼしかねない人類の敵「ファージ」との命がけの戦いを描いた作品だ。ファージと戦うための人間たちの切り札は生体兵器「オロチ」。移植された少年少女「モルニエ」は人の血を飲むことで顕現し、無類の強さを誇る怪物になる。
戦闘後はもとに戻るものの、戦えば戦うほどオロチは宿主の身体を侵食していく。死ぬか、戦って化け物になるかの選択肢しかモルニエには残されていない。
西丸子英夫(にしまるこ・ひでお)は、自分の意思ではなく運悪くモルニエに選ばれた少年。モルニエには血を飲ませバックアップする特殊衛生兵がバディとして付けられる。彼のバディは十日市祈莉(とうかいち・いのり)。西丸子の世話を優しく甲斐甲斐しく行い、とことん尽くす少女だ。
他のチームでは、特殊衛生兵がモルニエに血を飲ませ、命がけながらも威勢よく飛び出している。しかし西丸子は「死にたくない」と逃げっぱなしだ。
十日市に対して、思春期らしい恋心を抱いていた彼。「愛する人を守る為なら 俺は死んだって構わない!!」と彼が覚醒するシーンは少年漫画的でものすごく格好がいい。愛の力を感じさせるシーンだ。ところがその後にある事実が発覚して、物語の見え方はガラッとかわる。苛立ちすら感じるほどうじうじした表現で描かれている西丸子だが、一話の派手に戦った後の展開を読んでから彼のうじうじを見直すと、きっとイライラは全部同情に転じるだろう。
ここはネタバレなので触れないでおくが、そこを知ってしまうと西丸子の今後はもちろん、親切だった十日市の心も、その他のバディの少年少女たちも見ていていたたまれなくなってしまう。「お前ならまだやれるだろ?」「当たり前よッ!!!」と威勢よく戦う別のオルニエの男女コンビも、描写が爽やかでヒロイックなだけに、事実を知るとやるせなさが膨らんでしまう。
人類が絶望しそうなアクションシーンが多いド派手な作品。と同時に軍によるバディ関係が悲しすぎて、戦いのシーンが来るたびに痛々しさが増すばかり。いずれオロチに侵食されていく、という窮地も悲しいのだが、この作品の哀しさはもっと別のところにある。
西丸子が十日市と二人きりで生活する中で恋心を抱いたように、二人きりの生活で視野が狭くなればなるほど、人を愛し、命を賭し、そして取り返しのつかないことになる。現時点では、少年少女と地球には破滅しか見えない。