2018.03.02
【日替わりレビュー:金曜日】『なのに、千輝くんが甘すぎる。』亜南くじら
『なのに、千輝くんが甘すぎる。』
俺に片想いすれば?
デザートは最近かなり甘めな恋愛を描く作品が増えている印象があるのですが、こちらもそんな流れの中で登場した作品です。
主人公の如月真綾は、人生初の告白で大玉砕。フラレたことを思い出して、「わああああ!」となっているところを、同じ図書当番の千輝(ちぎら)くんに見られてしまいます。その流れで、彼にいきさつを話すのですが、その結果千輝くんがしてきたのは、意外な提案でした。
「俺に片想いすれば?
…っていうか、片想いごっこ。」
その提案に、楽しそうだと乗ることにした真綾。けれど、千輝くんはクールな第一印象とは裏腹に、ものすごく優しくて甘い男子で……ごっこのはずがいつの間にか……という、“ごっこ遊び”からはじまる片恋物語です。
ふたりとも変人
真綾はあらすじだけ読むと普通の女子高生っぽいですが、ひとたび恋に落ちると、相手のSNSを逐一チェックしたり、駅で待ち伏せしたり、写真を無限に眺め続けたりと、ストーカー気質のある結構ヤバめな女の子。
「恋をすると女の子はみんな常識的なストーカーになる」と、多少の自覚はあるものの、あくまでポジティブに捉えているあたりに危なさが現れていて怖……素敵です。
そんな彼女に片想いごっこを提案する強者・千輝くん、女子から大人気のイケメンで、感情をあまり表に出さない不思議系な男の子です。
こんな提案をする時点でなかなかの変人であることが窺えますが、天然なのか狙ってなのか、いちいちやってくることが甘い。不意なボディータッチやドキッとするような言葉はもちろんのこと、他の女子と違って、真綾にはなんとなく興味を持っていて、特別扱いしてくれているような言動の数々がたびたび飛び出すものだから、真綾の胸の高鳴りは止まりません。
しかしながら表情はいつもの通りなので、その意図は全く読めません。単に甘いだけなく、ミステリアスさも持ち合わせているところが、一つの魅力と言えるでしょう。
メインキャラの割にその内面は比較的謎に包まれたキャラではありますが、そもそも真綾を相手に出来ている時点で非常に懐が深い人物であることがうかがえます。真綾の危なさが彼の包容力の前では霞んで、普通の恋する女の子になる。その事実だけで、もう十分な説得力なんです。
“ごっこ”だから簡単なこと、難しいこと
“片想いごっこ”と言いつつ千輝くんがとにかく甘く、好意丸出しな発言をしたりもするので、雰囲気的には“恋人ごっこ”に近い印象があります。”ごっこ”だけに、それにかこつけて一緒に帰ったり手を繋いだりといったことは簡単にできて、二人の距離はすぐに縮まります。が、そこから先に進もうとするには、逆にそれが枷になってしまう。
互いに好意があることはありありなのに、片想いごっこゆえに核心に迫ることができない。そんなもどかしさが、物語が進むにつれて甘さの中に浮かんできて、切なさミックスな味わいへと変わっていきます。
おかしな2人の、おかしのように甘く、ときに切ない恋物語。要注目の一作です!
©亜南くじら/講談社