2018.03.08
【日替わりレビュー:木曜日】『あんたさぁ、』ルネッサンス吉田
『あんたさぁ、』
傷つけて、傷つきながら、ただ生きる。それだけ。
ルネッサンス吉田先生の作品は、どれも底に諦観があるような感じがして好きだ。
健やかな体と心で、「この人だ!」と思えるパートナーを見つけ、友情を深めあいながら、勉学や仕事に励む。そんな王道の人生を送れない(送りたくもない)人はいる。そういう人間にとって、「こんな状態でも生きている」と思える作品があるのは救いであり、私はなんども、そういった意味でルネッサンス吉田の作品に許されてきたような気がする。
最新刊の『あんたさぁ、』は、一つ屋根の下に暮らす姉弟の、つかずはなれずの関係を描く。
姉は、双極性障害と診断され、頻繁にその症状に苦しめられる。同時に体も売り、したくもないセックスに顔を歪ませながら、苦しみもがきながらマンガを描いている。その一方で、弟は、飄々とした表情で、姉のことを「あんた」と呼び、体売りのことは察しつつも踏み込まない。冷静というか、冷たい。
しかしながら、弟は弟で、誰にも言えない過去を心に秘めている。だからだろうか、たまに、気まぐれのような優しさを見せて、姉をひどく喜ばせる。読んでいる私は、過剰に喜ぶ姉の姿に泣いてしまう。
痛くて苦しくて、正直読むのがしんどい。しんどいのだけど、なぜか穏やかになっていく心もある。ルネッサンス吉田先生の作品を読んでいると、なにが幸福かわからなくなる。それと同時に、なぜか生きる活力まで湧いてくるから不思議だ。
辛くなって自分を傷つけるようなことをしても、いい歳して子どもみたいに泣き喚いても、それでも姉は生きている。弟はそばにいる。ただそれだけでいい。
©ルネッサンス吉田/小学館